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ギャップを生み出すために重ねるレイヤー:秋山あいれインタビュー

2024.12.11
INTERVIEW

ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions III-in/sight』を開催する。複数のアーティストたちの新たな才能が交差する空間は、個性や表現がそれぞれの数だけ新たな知見を生み出す。

今回、参加アーティストたち6名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。同じ質問を投げかけることによって、彼らの作り出す表現の豊かさや、現在へ至るまでの道のり、アートと社会の関係性を解き明かす。


仮面が外れる瞬間:浮かび上がる人間性

Aire_Akiyama

秋山あいれ《Jester》2024, 116.7 × 91.0 × 3.0 cm, カンバス・油彩・アクリル

1. 今回の展示の制作テーマは?

秋山:人間が内に秘める欲望や心の「間(ま)」に焦点を当てています。日常生活の中で多くの人は「良い人」としての自分を演じ、真の欲望や本音を押し隠しています。しかし、その偽りの仮面が限界に達する時、内なる自己がふと垣間見える瞬間が訪れることがあります。今回の作品は、潜在意識と顕在意識が交錯する一瞬の人間性に迫り、個人の体験を超えて、普遍的な感覚を引き出そうと試みています。

2. メインヴィジュアルとなった作品《Jestar》について教えてください

秋山:「Jestar」は、自分を含む芸に携わる人々にとって、光と闇が表裏一体であることを描いた作品です。画家、音楽家、作家、芸人、役者など、芸を生業とする人々は社会的なヒエラルキーでは必ずしも高い位置にいるわけではなく、その根底には人々を「楽しませる」という道化師のような役割があると考えています。しかし、時として私たちアーティストは、作品を通じて鑑賞者に莫大な影響を与えるまでに成長し、社会に対して大きな影響力を持つまでの存在になってしまうことがあります。その矛盾や滑稽さを感じたことが、この作品を生むきっかけとなりました。そんな葛藤の中で感じる悲しみを表しています。

Aire_Akiyama

秋山あいれ《Echoes in Bloom #2》2024, 72.8×60.6cm, パネル、カンバス・油彩・アクリル

3. 創作における自分の原点、きっかけとなった出来事はありますか?

秋山:あまり原点を意識したことはないのですが、私の作品には「大勢の中で感じる孤独感」のようなものを常に組み込むようにしています。社会生活を送り、集団の中でこそふと孤立しているような感覚が常に心にあり、それが自然と作品のトーンや要素に反映されているのかもしれません。

4. 現在まで続く制作へのモチベーション、またアーティストとしての自分の強みは何ですか?

秋山:創作活動のモチベーションは、新たな表現への挑戦意欲、自己批評による自己成長、そして他者からの反応による刺激にあります。

特に、自己批評の姿勢は作品を深化させるために不可欠であると考えています。完成した作品を冷静に見つめ直し、改善点を見出すことで、次の制作に繋がる新たな糸口を常に探しています。一度の展示においても、2、3作ほどは完成してもボツとして扱い、発表を見送ることもあります。

また、他者からの反応も大きなインスピレーションの源です。作品が鑑賞者にどのように受け取られ、どのような感情や思考を引き起こすのか、その反応を通じて自分では見えなかった一面が引き出され、創作に新たな意義がもたらされます。総じて、絵を通じて自分自身との対話、そして他者との意見交換ができることに大きな魅力を感じています。

Aire_Akiyama

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

5. 今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください

秋山:数年前まではグラフィック的な要素の強い絵を描いていましたが、そこから少しずつ変化を試みてきました。画面の中でいかに「ギャップ」や「二面性」を生み出せるかを考え続け、その結果、磨りガラスのような透けた質感や、まるでシールを貼り付けたようなあえてチープなレイヤーを重ねる表現に辿り着きました。この表現が自分にとっての完成形かどうかはまだわかりません。さらに変化が必要だと感じています。

技法に関しては、現代的で新しいものを取り入れています。制作時間の制約もあり、速乾性と発色の良さからアクリルを主に使用しています。グリザイユ技法やグレージング技法を併用して微細な陰影を生み出し、複層的な質感を追求しています。古典と現代の技法を融合させた表現の試行錯誤を続けています。

6. 影響を受けた人物や作品はありますか?

秋山:豊田利晃監督の映画『青い春』です。青春という一見無垢で躍動的な時期に潜む荒廃や虚無、そして社会に対する反発を描きつつ、そうした破滅的な感情が何かしらの美しさや崇高さを帯びる瞬間を捉えています。私にとって、この作品は単なる「青春映画」を超えて、一瞬の美と崩壊の儚さを追求する指針のような存在です。自己の破滅や荒廃の中にこそ、本質的な美が見出されるというこの視点は、私自身の表現においても根底に流れるテーマとなっています。

Aire_Akiyama

秋山あいれ《blood red》2024, 80.5 × 65.7cm, カンバス・油彩・アクリル

7. 「他者の世界観との関わり」がグループ展の醍醐味だとすれば、今回の『Dimensions III』にはどんな化学反応を期待しますか?

秋山:グループ展の醍醐味は、自分の作品が他者の世界観と交わることでどんな変容を遂げるか、そして自分の作品が他の作品にどんな影響を与えるか、その相互作用を実感できる点にあります。他のアーティストたちの視点に触れることで、自分の作品が新たな意味を帯びたり解釈が深まったりするのではないかと期待しています。そうした有機的な関わり合いが、鑑賞者にとっても思いがけない視点を生み出し、新たな「化学反応」を引き起こせればと考えています。

8. 鑑賞者にぜひとも味わってほしいポイントはありますか?

秋山:決して明るい題材の絵ではないので、鑑賞者自身の本音や内面と重ね合わせながら見ていただければと思います。ふとした共鳴を味わってもらえると嬉しいです。

9. 今後の展望、夢などをお聞かせください

秋山:日本という国にとどまらず、もっと広い視点を持って活動の幅を広げていきたいと考えています。日本は良い意味で「平和ボケ」した国で、私もその小さな鳥籠の中にいるに過ぎません。一歩国境を越えればそこにはまた異なる文化や環境が広がっており、そうした多様な背景の中でこそ、新たな作品が生まれると信じています。

Aire_Akiyama

秋山あいれ《Borzoi》2024, 91.0 × 116.7cm, カンバス・油彩・アクリル

秋山の描く世界では、大勢の中でこそ際立つ孤独が、鑑賞者の内面と響き合うようである。自らの「間」を鑑賞者自身が作品の中に見つけてほしい。

『Dimensions III-in/sight』は、2024年12月27日まで。ホワイトストーンギャラリー・オンラインストアでは同展覧会をいつでもオンラインでご覧いただけます。

 

展覧会情報

 

Aire_Akiyama

秋山あいれ

1999年神奈川県生まれ。2023年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。18世紀以前の名画を髣髴とさせる重厚感のある描画を、エッジの効いた線描が撹拌する画風を特徴とする。相反する2つのレイヤーが同時に体現する温度差や違和感は、人間意識が抱えこむ底知れない沼―表層と深層の乖離―をあぶりだす。矛盾の共存においては、視点をどちらに置くかによって見える風景が全く異なるが、一方に偏ることの危うさ、型に嵌めることの不毛さを、秋山の作品は言外に強く含む。

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