ARTICLES
つぶさな筆触に宿る静謐な風景:福濱美志保インタビュー
2024.12.13
INTERVIEW
ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions III-in/sight』を開催する。複数のアーティストたちの新たな才能が交差する空間は、個性や表現がそれぞれの数だけ新たな知見を生み出す。
今回、参加アーティストたち6名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。同じ質問を投げかけることによって、彼らの作り出す表現の豊かさや、現在へ至るまでの道のり、アートと社会の関係性を解き明かす。
現実と非現実の入り混じる新しい景色
福濱美志保《Urchin》2024, 117.0 × 80.7 cm, カンバス・油彩
1. 今回の展示の制作テーマは?
福濱:手のひらに乗るような小さいモチーフを風景に見立て、大画面に引き延ばす油彩作品《Grandscape》シリーズを軸に制作しています。郷愁を感じさせる静謐な空間を、油彩の筆触だけに宿るリアリティや存在感と共に描き出しています。今回の出品作は屋外でモチーフを組み、陽の光や砂、植物などが作り出す広々とした情景を描きました。
2. メインヴィジュアルとなった作品《Urchin》について教えてください
福濱:明るく静かな海辺の光に包まれた景色を描きました。流木と人物が佇む場は、雪が降り積もっているようにも思えます。
3. 創作における自分の原点、きっかけとなった出来事はありますか?
福濱:学生時代、立体物を作って絵に描く課題があり、私は架空の町の模型を作り、それを絵に描き起こしました。その時に立体を覗き込むように撮った写真が印象的で、自分が作った風景に入り込めたように感じ、後にシリーズとして油彩作品を制作するきっかけとなりました。
福濱美志保《Wash My Wounds》2023-2024, 65.2×91.2cm, カンバス・油彩
4. 現在まで続く制作へのモチベーション、またアーティストとしての自分の強みは何ですか?
福濱:常に描きたいと思える新しい風景のイメージがあることがモチベーションになっています。それを絵具の色や質感を生かしながら描写できる力が強みなのではと考えています。
5. 今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください
福濱:美術には様々な表現方法がありますが、絵画は最も根源的な手法の1つで、私が最も惹かれるものです。私が考える絵画の魅力は、平たい画面なのにその中に空間が存在し、動いていないのに鑑賞者の中で自由に時間が流れ(ゆっくり、早く、あるいは静止して)、そして人が手を動かした痕跡が見えることです。私にとって、有機的な手触りの油絵具、特に不透明絵具の艶のないマットな質感が一番しっくりくるため、油彩作品を主に制作しています。
モノトーン的な配色は、私が理想とする静謐や郷愁とリンクした色合いであり、現実とも非現実ともつかない空間を生み出すためのものでもあります。近年は移住した山形の海や山などの豊かな自然に影響を受け、モチーフが室内から屋外へ展開し、絵具の色彩も鮮やかになってきています。
6. 影響を受けた人物や作品はありますか?
福濱:舟越桂、北島敬三、マックス・エルンスト、ジョン・エヴァレット・ミレー、モーリス・センダック、ディック・ブルーナなどの作品に興味を持っています。
ホワイトストーンギャラリー銀座新館
7. 「他者の世界観との関わり」がグループ展の醍醐味だとすれば、今回の『Dimensions III』にはどんな化学反応を期待しますか?
福濱:方向性の異なる様々な表現が集まるので、それぞれの魅力が際立つのではと期待しています。
8. 鑑賞者にぜひとも味わってほしいポイントはありますか?
福濱:決定的な出来事を描いているわけではありませんが、その気配を描き、鑑賞者の想像に委ねたいと考えています。現在の不安定な社会の状況から感じたものが、作品の中で何かが起こりそうな不穏な気配として表れている部分もあるかもしれません。描いた風景が誰かのもう一つの居場所になればと願っています。
9. 今後の展望、夢などをお聞かせください
福濱:夢のようでありながら、現実の世界とも呼応する新たな風景を開拓し、様々な方向から作品を展開させていきたいと考えています。
自分にとって嘘のない、一番リアリティのある表現を常に追い、よい作品を描いていきたいです。
福濱美志保《Wildflower》2024, 41.0 × 41.0cm, カンバス・油彩
写実的な筆致で描かれる空間は、福濱が見出した新しい風景である。その中に入り込む感覚を味わってほしい。
『Dimensions III-in/sight』は、2024年12月27日まで。ホワイトストーンギャラリー・オンラインストアでは同展覧会をいつでもオンラインでご覧いただけます。
福濱美志保
1992年東京都生まれ。2017年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。精緻な写実描写のなかにミニチュアのモチーフが組み込まれた福濱の絵画世界は、観る者の通常の縮尺感覚や空間への帰属意識を撹拌する。一見、瑞々しく安定感のある筆致はその実、動性や不穏さと静かに拮抗し、微視的な視点のフォーカスからは窺い知れぬ広大なユニヴァースを内包している。2024年『第42回上野の森美術館大賞』入選、2023年『Idemitsu Art Award 2023』入選、2023年月刊美術『美術新人賞デビュー2023』及び 2022年第7回星乃珈琲店絵画コンテストでグランプリ、2021年損保ジャパン『FACE2021』入選、など受賞歴多数。これまでに6度の個展を開催。現在、山形県に移住し、制作活動をおこなう。