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存在を刻み込むモザイクは多様性への願い:小林望美インタビュー
2024.12.12
INTERVIEW
ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions III-in/sight』を開催する。複数のアーティストたちの新たな才能が交差する空間は、個性や表現がそれぞれの数だけ新たな知見を生み出す。
今回、参加アーティストたち6名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。同じ質問を投げかけることによって、彼らの作り出す表現の豊かさや、現在へ至るまでの道のり、アートと社会の関係性を解き明かす。
彫刻であり絵画である作品:粒子の集合体から浮かび上がる生活
小林望美《azalea》2024, 53.0 × 41.0 cm, パネル・アクリル
1. 今回の展示の制作テーマは?
小林:生活です。普段目にするものごとの多くが私たちの生活と続いています。私は人物を描く際はモザイクの粒子を個人に例え、一粒ずつ着彩し、その集合体で社会を表現していますが、作品を通して鑑賞者の記憶や生活の中にも何かしらの共通点や気づきを見つけて貰えたらおもしろいと思います。
2. メインヴィジュアルとなった作品《azalea》について教えてください
小林:今回のメインヴィジュアルは植物の種子、種子の集まりで花を描いています。引っ越し先の街路樹がつつじなのですが、実家の庭先にも咲いていて、それに気づいたとき生活の地続きを感じました。
3. 創作における自分の原点、きっかけとなった出来事はありますか?
小林:「人と違うことを武器にしてはいけないよ」という助言から、人と異なることは改めてあたりまえであることを意識するようになりました。あたりまえであるのに忘れがちです。多様な生きかたや存在を認め合いたい思いから現在の手法でモザイク画を始めました。
小林望美《s/he》2024, 53.0×41.0cm, パネル・アクリル
4. 現在まで続く制作へのモチベーション、またアーティストとしての自分の強みは何ですか?
小林:「劣等感の矛先を他者ではなく過去の自分へ向けて、より良い作品作りを!」をモチベーションにしています。また、気の遠くなるような作業もこつこつと楽しんで取り組める点は強みだと思います。
5. 今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください
小林:映像編集中に発生したブロックノイズがきっかけで、モザイク表現へ関心を持ちました。この画面をよりおもしろくするアクセントは何か考えた時、存在を刻み込むという行為を彫ることに置き換え、作品に取り入れました。さらにコンセプトと合致した手法で何か加えられる要素は?と探りながら金継ぎを模した金属色の流し込みに至りました。そのため連帯や調和を示したい時は彫らない選択をとっています。
小林望美《chrysalisrium》2023, 116.7×80.5cm, 紙・アクリル
6. 影響を受けた人物や作品はありますか?
小林:特に誰かということはなく、物事に真摯に向き合い芯を持ちつつも新しいことへチャレンジしている人々を、ジャンルを問わず尊敬しており、自分もそうあり続けたいと感じています。
7. 「他者の世界観との関わり」がグループ展の醍醐味だとすれば、今回の『Dimensions III』にはどんな化学反応を期待しますか?
小林:他者の世界観と関わる機会は、生活の中でたくさん遭遇しているのに意識してから見えてくることも多いです。美術作品は鑑賞する際に描かれているものを考察したり、どういう意図があって生まれた作品なのか知ることで何倍も楽しくなりますが、その姿勢を生活にも取り入れられたら良いですよね。多様な世代と作品が並ぶ今回の環境が、そういったきっかけの場になれたら素敵だと思います。
小林望美《drawing》2024, 28.5×20.5cm, 紙・ドローイング
8. 鑑賞者にぜひとも味わってほしいポイントはありますか?
小林:描かれているものがどう見えるかは鑑賞者の数だけ正解があります。何が見えたのか他者と共有することで違う解釈を知るなど自由に楽しんでください。
また、数メートル離れてみた時と近くで鑑賞した時とで作品の印象も大きく異なります。彫ってある作品は鑑賞角度によって特に金属色の煌めき方が変わるので、ぜひ斜めからも鑑賞してモザイクの凹凸やキラキラと輝く画面を楽しんで欲しいです。
9. 今後の展望、夢などをお聞かせください
小林:作品の周知はもちろんのこと、美術作品としての価値を強固にしていきたいです。他にもモザイク画を活かした体験的な商品(塗り絵やパズル等)や、触れる画面など視覚的要素以外でも楽しめる作品を作ってみたいです。
小林望美《summer-end》2023-2024, 53.0×33.3cm, 紙・アクリル
小林望美の彫るモザイク模様は、そのテクスチャーの存在感で観る者を圧倒する。そこには人物や生活の息遣いが浮かび上がり、社会への繋がりも感じさせる。
『Dimensions III-in/sight』は、2024年12月27日まで。ホワイトストーンギャラリー・オンラインストアでは同展覧会をいつでもオンラインでご覧いただけます。
小林望美
茨城県生まれ。群馬大学教育学部芸術・表現系美術専攻卒業。「彫るモザイク作家」とも称される小林のモザイク技法は、伝統的な装飾技法に則ったものではなく、デジタル派生のブロックノイズや低解像度の写真や画像から着想を得ている。「自他の近似値や表裏一体性」をテーマに、2016年には木製パネルへ描いたモザイク画を彫刻刀で彫るという独自の手法を確立。モザイクを彫るという行為は、物質的な素材の解体のみならず、我々が無意識のうちに働かせてしまう先入観を剥ぎ取り、匿名性というゼロ地点への解放をも意味する。小林にとって、モザイクの断片は個人であり、集合体は社会を意味する。表現したい個の強烈さと彫りの強度は比例し、それらは全体像の属性を左右してゆく。多様な個とそれを取り巻く環境との関わりにおける、自律した接合点を作品は例示しつづける。2016年『KENZAN2016』展にてロウワーアキハバラ賞を、2017年『第2回星乃珈琲店絵画コンテスト』にて佐藤俊介審査員優秀賞を受賞。これまでに7回の個展を開催。