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繊細なガラスで追求する「地球の色」:萩原睦インタビュー

ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions III-in/sight』を開催する。複数のアーティストたちの新たな才能が交差する空間は、個性や表現がそれぞれの数だけ新たな知見を生み出す。

今回、参加アーティストたち6名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。同じ質問を投げかけることによって、彼らの作り出す表現の豊かさや、現在へ至るまでの道のり、アートと社会の関係性を解き明かす。

地球の影の記憶:グラデーションの反映

Mutsumi-Hagiwara

萩原睦《たそかれの空》2024, ガラス

1. 今回の展示の制作テーマは?

萩原:展示のテーマは前回の個展に引き続き「地球の色」です。朝焼けや夕暮れ、穏やかな海、雨に当たる日の光など、地球の光景の記憶をガラスに封じ込めたいと思い制作しました。見てくださる方々のそれぞれの心の中にある「地球の色」を見つけていただけたら嬉しいです。

2. メインヴィジュアルとなった作品《たそかれの空》について教えてください

萩原:「たそかれの空」は、香川県で見た空の色のグラデーションの記憶をもとに夕暮れから夜へと移り変わる空の色彩をガラスに映し出した作品です。夕暮れ時の柔らかく夜に染まり刻一刻と変わる空の美しさを、ガラスの中に閉じ込めることで、瞬間の「記憶」として残せればと思い制作しました。

Mutsumi-Hagiwara

萩原睦《天気雨》2024, ガラス

3. 創作における自分の原点、きっかけとなった出来事はありますか?

萩原:原点は「地球影」と呼ばれる空の現象との出会いです。数年前に夕陽をフィルムカメラで撮影していた時、振り返ると美しい色が空一面に広がっていました。地球影は西の空に太陽が沈むとき、東の空に浮かび上がる紺色の地球の影とその上に帯状に見えるピンク色のビーナスベルトが特徴で、この空の色に息をするのも忘れて見入っていました。

地球影は条件がそろえば見ることができますが、この時、今まで夕陽の方にばかり目をやっていてその存在に気づかずに過ごしていたことに気づきました。刻一刻と変化する美しい日常のふとした光景や、気付かずに通り過ぎてしまう些細な美しさを、立ち止まって掬い上げて、日常的に手で触れられる形にしたい。触れた時に、あの瞬間を思い出して生きる力に変えていきたい。そう思ったのが創作のきっかけです。

4. 現在まで続く制作へのモチベーション、またアーティストとしての自分の強みは何ですか?

萩原:制作へのモチベーションは、地球上の美しい自然の景色に出会った時、この美しい景色に出会うために生まれてきたんだ。と感じ、それを作品にしたいという使命感のような思いが湧き上がってきます。地球の見せる季節の移り変わりや色のグラデーションは毎日変化していて飽きることがありません。私が生きているうちにどれだけの景色を見ることができるのか、それをいくつ形にできるのか。当たり前のことかもしれませんが、日々大切に過ごしたいと思っています。アーティストとしての強みは、景色の中の美しさを感じとる感覚と、ガラスという素材を研究し作品の細部までこだわり抜く集中力だと思っています。

Mutsumi-Hagiwara

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

5. 今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください

萩原:ガラスは常に変化を見せる素材で、触れるたびに新たな発見を与えてくれる存在です。結晶構造を持たない「非晶質」であるガラスは、光を通しつつも反射や屈折で表情が変わります。この特性が、まるで記憶の中にある一瞬の光景を閉じ込めるかのようで、私の求める表現にふさわしいと考えています。

6. 影響を受けた人物や作品はありますか?

萩原:音楽ではドビュッシーに影響を受けました。ドビュッシーの音楽は色彩豊かで、まるで光や影が揺れ動くような響きがあります。目をつぶって聞いているとさまざまな美しい光景が目に浮かんできます。また、クロード・モネも私にとって重要な作家です。モネの描く光の変化の色彩の感覚に大きな影響を受けてきました。私がガラスで表現したい「移ろい」や「儚さ」と通じるものを感じています。

Mutsumi-Hagiwara

萩原睦《かわたれの海》2024, φ25.0, ガラス

7. 「他者の世界観との関わり」がグループ展の醍醐味だとすれば、今回の『Dimensions III』にはどんな化学反応を期待しますか?

萩原:グループ展では、自分だけでは生まれない視点や感性に触れることができ、それが刺激となって新しい感覚が引き出されると感じます。今回も、他のアーティストの方々がそれぞれ異なる素材やテーマで表現する中で、私のガラス作品がどのように映り、交わるかがとても楽しみです。異なる作品同士が同じ空間で互いに響き合うことで、見てくださる方にとっても新たな気づきや想像が生まれるような展示空間になるのではないかと期待しています

8. 鑑賞者にぜひとも味わってほしいポイントはありますか?

萩原:ぜひ、作品の色彩と表現の変化を楽しんでほしいです。今回の展示作品の中には、不透明で曇りガラスのような作品「たそかれの空」「かわたれの海」と、透明なガラスを用いた作品「天気雨」、かたまりのガラスを用いた作品「瀬戸内の記憶」があります。ガラスという同じ素材ではありますが、それぞれの作品の持つ纏う空気感の違いを楽しんでいただけたら幸いです。それぞれ光が当たる角度や見る位置によって微妙に表情が変わります。その変化の中に地球の色を感じ取ってもらえたらと思います。

9. 今後の展望、夢などをお聞かせください

萩原:これからもガラスを通して、地球の景色の美しさ、時間や記憶の儚さを追求していきたいと思っています。フィルムカメラを片手に様々な場所を訪ねて、その場所で暮らし、まだ見ぬ美しい景色に出逢いに行きたいです。

また、観る人が作品の中に入り込み、まるで自分の記憶や物語が広がるような没入感のある空間を作るのも目標の一つです。海外での活動も増やして、異なる文化や自然に触れながら、新しい視点を取り入れた作品を発表できたらと思います。現在はフィンランドに留学中です。いつかこの景色を作品としてお届けしたいです。

Mutsumi-Hagiwara

萩原睦《瀬戸内の海》2024, ガラス

萩原睦のガラスに込められた記憶は、一瞬の移ろいであり、その瞬間の儚さを永遠に閉じ込める。物質化した記憶に触れて欲しい。

『Dimensions III-in/sight』は、2024年12月27日まで。ホワイトストーンギャラリー・オンラインでは同展覧会の様子をいつでもご覧いただけます。

 

展覧会情報

 

Mutsumi-Hagiwara

萩原睦

女子美術大学工芸専攻を首席で卒業後(加藤成之記念賞受賞)、2022 年東京藝術大学大学院修士課程修了。同年、第 70 回東京藝術大学卒業・修了制作展にて荒川区長賞受賞。幼いころより自然や季節の移ろいに触れてきた体験は、記憶というフィルターに抽出され、ニュアンス豊かな物語性を帯びる。萩原のガラス作品においては、写真と言葉も重要な構成要素であり、観る者の想像力を相互に補完しつつ、あたかも多声音楽のように作品世界への没入を促す。清明さを内に秘めた色調のあわいは、ガラスという素材の硬質さを超えた有機的な佇まいと柔らかな動性を実現している。現在、東京藝術大学大学院博士課程在学中。

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