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The journey of “bijin-ga” continues, updating its boundaries|Senko Takahashi’s Interview

2023.09.15
INTERVIEW

高橋宣光『The Frontier of Edge』ホワイトストーンギャラリー銀座新館

アートは時折、アーティスト自身の多様な体験と出会いによって生まれ変わる。高橋宣光というアーティストも、その魔法の瞬間に出会ったひとりだ。ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、高橋宣光による『The Frontier of Edge』を開催中。さまざまなジャンルでの体験は同作家にアーティストとしての芽生えを与え、その経歴はまるでレイヤーのように積み重なり、本展覧会へとつながった。インタビューを通して、高橋宣光がアーティストとして活動する理由や現代の「美人画」を追い求める意義について探求した。

具象表現と抽象表現

高橋宣光『The Frontier of Edge』ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ー今展はホワイトストーンギャラリーでの初の個展となります。どのような展覧会になりましたか?

高橋:私は近年描き続けてきた美人画としての具象表現と抽象表現を、一画面上に落とし込む作品を探求してきました。美人画と呼ばれる具象表現がもたらす、直感的なリアリティ。抽象表現による、視覚からの解放。具象と抽象、その境界線を探究し、鑑賞者の感情や思考を揺さぶることのできるような展覧会を目指しました。

高橋宣光『The Frontier of Edge』ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ータイトル名『The Frontier of Edge』にはどのような意図が?

高橋:自己と他者、自国と隣国など、境界線は部分と部分を分かつことで自己を明確にしてくれる存在です。だからこそ、問題も多く生まれているように感じます。一方でデジタル技術の発展により、現実と仮想現実など、瞬間的な情報共有が可能になることによって、自己と他者との差は曖昧化しているようにも感じるのです。このような時代に生きる女性の、その強さの合間に見え隠れする柔らかさや危うさを同時に表現したいと考えています。

絵画というのは、言うなれば境界線を描く事で成立しています。その境界線を私の独自の目線で探求し、選び取り、表現する事により、世界の見え方が変わってくる。その体験を鑑賞者の方にもしてもらいたいと思い、『The Frontier of Edge』というテーマにしました。

流れる境界、きらめく色彩

高橋宣光《Edge-001P》2023, 145.5 × 112.1 cm, Panel, canvas, acrylic, gesso, airbrushing.

ー本展には展覧会名にも入っている「Edge」という単語がついた作品が4作品出展されています。《Edge-001P》はやわらかな色彩が特徴の作品ですね。

高橋:私はこれまで主に顔を中心に描いてきたのですが、今回の個展で全身を描くことに挑戦しました。おおまかなラインを下描きし、キャンバス上で仕上げていく際に「Edge」となる線を確定して制作しています。

全身を描く際はとにかくバランスを重視しています。その上で、線を描かない部分や敢えて描く部分など、細かに設定します。色彩に関しては何を使うかは特に決めずに、自然と湧き上がる色を塗り重ねるようにして色付けしました。《Edge-001P》は最初に顔を描いてからプロポーションを決めたのですが、全体が見えてきた段階で「7年目の浮気」のマリリン・モンローが頭をよぎったので、現代版として描いてみました。

高橋宣光《Edge-002G》2023, 130.3 × 129.8 cm, Panel, canvas, acrylic, gesso, airbrushing

ー《Edge-001P》とは対照的に《Edge-002G》はゴールドで統一された作品ですね。女性の強さが構図と色彩によって後押しされているように感じます。

高橋:《Edge-002G》は早い段階で構図が決まっていて、顔をメインに私が得意とする煽り気味の表情で制作しています。煽りの表情は女性の色気をほのかに感じさせる構図なので、強さと色気を上手く表現できたのではと、我ながら思っています。

ただ、ゴールドという色ひとつとっても、多種多様な色があります。平面さを感じさせない、金箔のような濃淡のあるゴールドにするために苦労しました。当初は別の要素を入れることも考えましたが、ゴールドの背景に魅力を感じたので、敢えてシンプルに。対になる作品としてシルバーの《Edge-003S》も制作し、女性の雰囲気も背景に合わせて描いてみました。

高橋宣光『The Frontier of Edge』ホワイトストーンギャラリー銀座新館

アーティストとしての自覚を促した様々なメディア経験

高橋宣光『The Frontier of Edge』より、《FACE07》2023, 65.2 ×45.5 cm, Panel, resin on canvas, giclee, medium.

ー高橋さんはかつてニューヨークのグラフィックデザイン会社に勤務、有名写真事務所に所属、ディズニーのイラストレーションも手掛けるなど、様々なメディアでの経験が豊富です。美術史において最も伝統的なペインティングを選択した理由は?

高橋:幼少の頃から絵を描くことが好きでした。過去に色々な分野で経験を積んできましたが、勤務時間以外は絵を描く事で仕事とのバランスを取っていました。NYでは週6日16時間労働という今ではありえない環境で働いていましたが、絵を描く事でなんとか成立していたのだと思います。

イラストレーション時代は当然として、一定の枠内での制作を求められましたので、自由な制作とは真逆の環境でした。だからこそ、独自の絵画と向き合うための意欲を得ることが出来たのかもしれません。私が社会に出た時とは異なり、現在のアートを取り巻く環境が大きく変化していることも、心新たに制作する気力を奮い立たせてくれた要因の1つですね。

高橋宣光《Flowers in the Water》2011, 55.0 × 42.0 cm, Frame, giclee, medium, foil on canvas.

ーこれまでの経験は、今展で展示されている作品にどのように繋がっていますか?

高橋:NYの有名写真事務所では、エアブラシによる絵画作品のマスキングの技術を買われて、手作業による写真合成の仕事を任されていました。当時はパソコンもデジタルカメラも無く全てアナログでの作業です。0.01mmのズレも許されない緻密な作業をし続け、出来上がったフィルムを重ねることで一つの作品へと仕上げていくのです。この「エッジ=境界線」と「レイヤー=階層」という概念は私の中に強く残っています。細かな線へのこだわりや、階層別に考え塗り重ねていく手法を現在も制作に利用しています。

またイラストレーションの時代は、背景にある物語を一画面に落とし込む事を考えるのが楽しく、その点を評価してもらえる機会が多かったように感じます。ディズニーに関しては、巨大なマーケットの中での差別化を図るため、私のアイデンティティでもある日本独自の技法や表現を意識して制作していた事が評価されたのかなと思っています。

境界線のその先へ

制作中の高橋宣光

ー今回の展覧会への意気込みをお聞かせください。

高橋:絵画の要素である線「境界線」を主軸にし、強調や引き算をすることで見えてくる別の視点からの景色。直感的でありながらも既成概念にとらわれない「境界線」の生み出す違和感から、鑑賞者の方の思考を解放へと導けたらと思っています。

加えて、食品ロスや危機的な大気汚染、過剰包装等の現代社会においての様々な事柄に対する警鐘として、引き算の勇気や姿勢を私の作品から感じて頂けたら幸いです。本展覧会の作品は境界線を強調しておりますが、同時にレイヤーとしての階層の概念は私というアーティストに染みついている描き方です。影や遠近感の違和感もぜひお楽しみください。

高橋宣光『The Frontier of Edge』ホワイトストーンギャラリー銀座新館

グラフィックデザイン、写真、イラストレーションなど幅広い芸術形式で自身の表現を試みてきた、高橋宣光。多彩なジャンルへの探求心は、彼の作品に独自の深みと多面性を、そして美人画というジャンルに対する新たな視座をもたらした。男女という二項対立から解き放たれ、多様性が重要視される今日の時代だからこそ、このテーマはさらに力強いものとなる。アートの可能性を切り拓く『The Frontier of Edge』は、2023年9月23日まで。同展覧会はオンライン・エキシビションでもご堪能頂けます。

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