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躍動感ある柄が産み出すパワー:拡張するアヒ・チョイの世界
2024.11.21
INTERVIEW
滑らかで力強い曲線に区切られた中に、生き生きと並ぶ模様たち。細胞のような7つの「セル」から成り立つ特徴的な柄は、キャンバスを飛び出し立体へ、そして空間をも侵食していく。
アヒ・チョイはストリートカルチャーと大自然の壮大さから影響を受け、自身が受けたインスピレーションをアートとして表現する。身につけたり持ち運びたくなる魅力がある「AHHI柄」はどこまで拡張していくのだろうか。生み出される過程や目指す先はどこにあるのか、アヒ・チョイ氏本人にインタビューを行った。
増殖するインスピレーション
アヒ・チョイ:365 inspiration/Whitestone Ginza New Gallery
ー特徴的な「AHHI柄」は、どこからイメージが生まれたんでしょうか?
アヒ:偶然に出てきたのが正直な所です。この形になったのは、LAから日本に帰国して絵が描けなくなった時。心が休まると聞いて奈良の東大寺に行きました。お堂に入った瞬間、わーっとインスピレーションが沸いたんです。そのイメージとして出てきて、描いたのがこの形ですね。初めは筆ペンで描いていました。
細胞みたいに一つずつ区切られているのを「セル」と呼んでいます。そのセルの中に、連続のドットで繋がっている柄があるのですが、これが最初にあった形です。そこからギザギザの柄や斜線が出てきたり、描き進めていくうちに柄が増えてきたんです。初めからこの形だったわけではない。
その柄を描き続けて15年、現在7つの柄が存在してます。今後減ることはまずないですね。柄が増えていく可能性はありますが、僕の中でバランスが取れていて、気持ちいいので、当分7種類で描くつもりです。
アヒ・チョイ:365 inspiration/Whitestone Ginza New Gallery
ー絵を描くプロセスを教えてください。
アヒ:様々なパターンがあるのですが、今回の個展のタイトルになっている「365 inspiration」につながるパターンは、自分の日常生活の中で目に入ってくる、何かのディスプレイやデザインだったり、街並みや山・空の風景風景だったりとか、そういう何かしらの色情報を一個一個大切にキャプチャーして作品に落とし込んでいます。色を反映させているのが今年のシリーズの特徴ですね。
モノクロの作品に関しては、いきなり自動筆記で描いてしまう。イメージを持たないで、いきなりキャンパスに描いてしまうパターンもあります。
また、夢に出てきた作品を描くパターンもあります。時折、見たことのない空間に自分の絵が飾ってあって、自分と誰かがその絵の前で喋ってる夢を見るんです。それを第3者の視点から俯瞰的に見ているんですよ。人のサイズ感から、飾ってあった絵のサイズや、何色だったのか、どんな形してたのか、マテリアルは何だったのか……と、夢の記憶というメモを起きた瞬間に残していて、それをもとに制作します。たまに、夢で見たシチュエーションが数年後に現実になることがあって面白いです。
全てに共通しているのは、7 個の柄の組み合わせで成り立っています。
ー実際に描くときはどういった工程になりますか?
アヒ:下絵はなしで、いきなり描きます。線の滑らかさを僕は重要だと考えているので、1 本の美しく、気持ちいいラインを描くにはマーカーを使うんです。筆に絵の具をつけて線を引く場合、延々と描けるものではないですよね。描いてる間にプツッと途絶えてしまいます。一番初めはマーカーでラインを描いて、そこから塗り込んでいく作業をしています。かすれや色むらなどを極力なくしたいなと思ってます。
日常×AHHI柄の化学反応
アヒ・チョイ:365 inspiration/Whitestone Ginza New Gallery
ー今回2Fの展示は、AHHI柄が空間を侵食するようなインスタレーションになっています。これまでと違った試みですが、何故立体の作品を作ったのでしょうか?
アヒ:今回は鉢やスケートボード、ベンチ、また、カバンなどの持つことが出来るものなど、身近なものを自分の柄で覆って、ジャックしました。その時にどんな化学反応が起こるかというのにいうのもすごく興味がありました。そうすると、人はどういう風に見えるのか、僕もそれがどういう風に見えるのか?それを楽しんでもらえたらいいかなと。
AHHI CHOI《Untitled AH-466》2024,Panel acrylic on canvas,65.2 × 53.0 cm
ー立体作品以外に、他に新しい試みはありますか?
アヒ:2階に展示している、グレーが入っているシリーズは今年からのもので、実は僕の中ではカラーとして扱っています。というのも、今まではこのベンチなど、単純に白と黒を使ったものが僕のモノクロのシリーズだったんです。ですが、今回の展示は日常にある色をテーマにしていて、基本的にはフルカラー。作品に落とし込む時に、カラーのものをモノクロのフィルターを通して見て、中間色のグレーとして描いているんです。
というのも、モノクロにした時に見る人が色を選べるんですよね。カラーのものはその色にしか見えてないと思いますが、フィルターを通した時にこういう風に色が変換されるとしたら、この濃いグレーのところは紫に、赤に見えるかもしれないし、人によって作品のカラーリングが変わるのが面白いかなと思っています。普段そういうことは考えないじゃないですか。そういう感覚をシェアすることで、作品を見た人たちの生活に彩りが入ってくるのが「365 inspiration」にしたかったんです。
土地と密接した出発点:移動から生まれる色彩
アヒ・チョイ:365 inspiration/Whitestone Ginza New Gallery
ーアートの道に進むことを決意したきっかけは?
アヒ:大学卒業してから韓国に 2 年、アメリカのLAに3年留学してましたが、LA留学中の残り半年のタイミングでいきなり絵を描きだしたんです。アメリカでは国立公園など圧倒的な土地を見て自然のパワーを感じるのにはまっていました。都市にも行ってみようとNYに2週間行ったのですが、めちゃくちゃ寒かったり地下鉄に乗り慣れてなかったり、人との距離がすごく近い感じがすごく居心地が悪かったんです。LAに帰った時に、NYで感じたものをなんとか表現をしようと思って、たまたまあった日めくりカレンダーの裏に、見た景色とかをシャーペンで書き始めたのがきっかけです。
ある時友達が遊びに来た時に絵を見てくれて、そしたら画材をくれて。どんどん描いていくうちに、別の友人がカフェで個展をやってみないかと声をかけてくれて、色々な人が応援してくれるうちに今に至ります。
アヒ・チョイ:365 inspiration/Whitestone Ginza New Gallery
ーこの間は韓国で個展を開催して、今回は日本、そして来年は台湾での個展が控えています。今後の意気込みは?
アヒ:先日アート台北に行った時に、長めに滞在してベタな観光もしました。そこで自分が表面的に知っていた台湾より少しだけちょっとだけ掘り下がった感じがあったので、365inspirationの一環として、台湾のカラーを使った作品を是非表現させてもらいたいなと思っていて。台湾の人が見た時に「これあそこの色だね」と思えるような、台湾にちなんだ作品も織り込ませながらお見せできたらと思います。
ー次に柄を乗せてみたいものはありますか?
アヒ:飛行機ですね。来年、日韓の国交正常化 60 周年なんですよ。僕は在日韓国人3世で、日本生まれ日本育ちですが、日韓の狭間にいるポジションとして、いい影響を及ぼせるような仕事ができたらいいと思って。日本と韓国を行き来している飛行機のラッピングを僕がして、実際に飛んだら、文字通り架け橋になるんじゃないかなって思います。
アートの力をこういう時にこそ使って、貢献できたらいいなと思っていますね。それで生活が成り立つのも大事ですけど、それより多分もっと大事なことがあって、僕らにしかできないこと、僕らしかできない仕事を、こういう立場にいてできるんだったら惜しみなくやっていこうかなと思ってます。
アヒ・チョイ
アヒ・チョイの作品には、鑑賞後の生活において、色づく世界の鮮やかさと、新たな発見をもたらしてくれる。想像力とインスピレーションを刺激される空間は、国境を越えて繋がる力を感じられるだろう。実際に足を運んでみてほしい。