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Morita Manabu by WOODが語る『Unfinished』

2022.4.22

ホワイトストーン銀座新館において2022年4月1日~23日の期間でMorita Manabu by WOODの個展『Unfinished』が開催されている。グラフィティアーティストとして多方面から注目を集めていたMoritaだが、今回の個展で展示されるのは全てキャンバスアート。グラフィティから大きく転換したきっかけや、Moritaが絵を描く理由、作品に込めた想いなど、現在のMoritaの姿をインタビューで解き明かす。


グラフィティから現代アートへ。ライフスタイルとしてのアート

ー『Unfinished』とはどういう意味ですか。

Morita:作家活動をしているなかで、色んなものを描いてきたんですが、まだ完成していない。これからも進化し続けるという意味で、未完成という意味の“unfinished”を個展名にしました。

ーグラフィティアーティストとして活動をされていましたが、キャンバスアートという異なる創作活動を始めたきっかけは?

Morita:ストリートアートをメインにやっていましたが、現代アートなどの作品を色々と見るようになって、「自分のアイデンティティーは何か」「これからどんな風に自分を表現するべきか」を考えるようになったのがきっかけです。

ー具体的にどんなアーティストの方からの影響を受けましたか。

Morita:すごくベタですが、KAWSですね。昔は理解できなかったんですが、現代アートの世界に身を置くようになって、その世界観がわかってきました。

影響を受けた作品や漫画のことを語るMorita。笑顔を見せながら話す場面も多かった。

影響を受けた作品や漫画のことを語るMorita。笑顔を見せながら話す場面も多かった。


ーご自身にとって、グラフィティとキャンバスアートの違いは。

Morita:グラフィティは僕の中では自発性のアート。下描きもしないし、色(スプレー)もあるものを持って行って、「さて何を描こうかな」みたいな感じ。その時の気分や環境で変動するんです。一方でキャンバスアートでは、客観性を意識しています。大切にしているのはメッセージであり、ストーリーを明確に盛り込んで制作していますね。

ー今回の個展で展示されている作品も様々なシリーズがありますね。例えばメインビジュアルの“BORDER series”にはどんなテーマがありますか。

Morita:BORDER series”では、生き物の感情を色とポーズで表現しています。ボーダー部分は心拍の動きを表しています。1つの言葉で表現される感情にもいろんな気持ちが混ざっていると思うので、1色ではなくて3色なんです。

ー具体的にどんな感情なんですか。

Morita:《Border red》も《Border blue》も好奇心がテーマなんですが、前者は高揚する好奇心で、後者は不安な好奇心を表現しています。赤がワクワクするような好奇心なのに対して、青はホラー映画を見る時みたいな怖いもの見たさのような好奇心がテーマになっています。

展示風景より、生き物の感情が色とポーズで表現された「BORDER series」


物質のない世界で生きる主人公“NEO”とは

展示風景より、仮想空間での複製が表現されている「Shadow Series」。

ー今回の個展では主人公とも言える人物が登場しますよね。

Morita:正式名称は「NEO」で、“新しい”という意味を込めてNEOにしました。普段は“ミライくん”ってあだ名で呼んでます。

ー彼はどんな存在ですか。

Morita:彼はサーバー上で生まれたAIで、未来のアンドロイドです。物質のない世界で生きています。人間という存在や、人間を取り巻く物質に対してすごく興味を持っていて、人間の感情や行動を興味を持って経験して表現しているんです。

ーミライくんは常にタンクトップと半パンですが、これにはなにか意図が?

Morita:僕が海外に行く時の格好ですね(笑)暑い地域であれば、大体タンクトップと短パン。ミライくんはアンドロイドなので別に服は着なくてもいいんですが、人間に興味を持っているので、人間みたくオシャレをして冒険をしています。

ーミライくんにご自身を投影されてるんですね。

Morita:何か1つ自分のアイデンティティーを残したいなと思って、この格好にしています。名前に関しても、本名はMorita Manabuだけど、グラフィティをやっていたときはニックネームのWOODっていう2つの顔がありました。彼も「NEO」という名前とは別の名前で呼んであげたいので、ミライくんというあだ名をつけていますね。

展示風景より、人間にはできないポーズがテーマの「SILHOUETTE series」。立体に見えていても質量のない平坦な空間であることが表現されている。

NEOにとっての孤独、Moritaにとっての孤独

ー”ミライくん”は「Sand Series」や「City Series」などのシリーズに登場しますが、全体を通したテーマはありますか?

Morita:ミライくんが登場する作品のテーマは“孤独”です。彼はアンドロイドなので孤独という感覚はないんですが、自分からするとやはり1人は寂しい。だから、1人でいるミライくんを見守ってあげたい、という気持ちで描いてますね。

展示風景より、人が大勢いるはずの街でNEOが徘徊する様子を描いた《CITY series》

ー孤独に対する忌避感が大きく影響している、ということでしょうか?

Morita:1人になりたくないと思いながら、絵を描いています。僕たちから見るとミライくんはすごく孤独ですよね。世界に1人きりでいろいろなことを体験しているわけですが、彼は体験したことを誰と共有するのだろうと。そもそも共有できないことに価値があるのだろうかと。そんなことを考えながら制作しています。

ーご自身は共有できない価値をどのように捉えていますか。

Morita:寂しい、ですかね。誰かと共有できないものに価値はないんじゃないかなと思ってます。アートの業界であれば、1つの作品を皆が欲しいから価値が高まっていくけれど、1人だとしても同じ価値が生まれるのかなと疑問に思っています。

インタビュー中のMorita。孤独への恐怖感が創作の源になっている。

ーそれでは、ご自身にとって今一番大切な価値とは何ですか。

Morita:たくさんありますが、一番は環境。生きていくための環境ですね。自分が望んだ世界を、環境を、作れるかということに重きを置いています。



孤独になりたくない、だから孤独を描く

ー個展名『Unfinished』には“進化する”という意味が含まれていますが、そもそもアートを志したきっかけは?

Morita:幼い頃に漫画家になりたいと思った、という背景が1つありますね。学生時代は本当に勉強が嫌いで、鉛筆を持ったら絵を描いてしまうんですよ。その時から、絵を描く=漫画しかないと思って、漫画を描いていました。

ーそれぐらい絵が好きなのですね。漫画家ではなくアートの道に進んだ理由は?

Morita:漫画の内容は見事におもしろくないんですが、描くこと自体もおもしろくありませんでした。1人で黙々と描くということが寂しくて自分にはできなかった。漫画家は向いていないなと思ってお先真っ暗になったんですが、クラブイベントでライブペイントをしている先輩を見て、すごくかっこいい、こうなりたいなという想いから、ストリートアートの活動をするようになりました。

展示風景より、グラフィティ時代のWOODの痕跡でもある「TAGTAGTAG series」。よく見ると小さなNEOがいる。

ーストリートアートの活動と並行して、20代前半は制作とは関係のないメカニックのお仕事をされていたこともありますよね。それを経て、やっぱり絵を描こうと思った理由は?

Morita:アーティストになることで環境を作れる存在になれると思ったんです。さまざまな人にメッセージを伝えて、共感してもらうことで、絵は人と関わることができるツールではないかと。便利な世の中になればなるほど、人は孤独になっていくのではないかと、昔から不安でした。だからこそ孤独をテーマにしてはいるんですけど、あくまでポジティブでアクティブな作品に仕上げているので、孤独だと感じたことがある人が共感して、前向きな気持ちを持ってくれたらいいなと思っています。



今だから“作家”と言える

展示風景より、「BORDER series」とMorita

ーグラフィティやスニーカーのデザインなど、さまざまなことをされてきましたが、今のご自身にあえて肩書きをつけるなら?

Morita:今やっと、「作家です」と言えるようになってきました。

ーこれまでは作家としての自信があまり無かったと?

Morita:ここ数年で本格的に作家活動をするようになって、片手間じゃできないと痛感したんです。今は自分の全てをかけてやっている自信があるから、やっと自分の中で作家になったと言えています。でも、肩書きはどんどん書き換えていきたいですね。

ー「肩書きを変える」というと?

Morita:もちろんキャンバスアートはこれからもやっていきますが、今後もいろんな画像や技法を試してみたいですね。もっといろんな物を試したいですし、使ってみたい。ミライくんのフィギュアも作りたいし、立体物も作りたいです。書き下ろしで漫画も描きたいと思っています(笑)

ー多方面への制作展望があるんですね。それらの制作はどんな風に行っていきたいですか?

Morita:ブラッシュアップを大切にしたいと思っています。若いマインドを持って新しいことを取り入れないと作家としては寂れていく。だから、人のいいところは吸収していきたい。そこが『Unfinished』に大きく重なってくるんですが、作家活動をしている限り、完成は一生しないなと思っていますね。

ーありがとうございます。それでは最後にエキシビジョンを観る方に一言メッセージをお願いします。

Morita:もちろんこれからも進化していきますが、今回の個展では今ある自分を全て出し切りました。あとは作品を見てもらって、いろんなことを感じ取ってもらえれば嬉しいです。



Morita氏の創作の原動力ともなっている「孤独」。サーバー上で生まれたNEOこと、ミライくんは、絶対的に孤独な存在であると同時に、孤独を恐れるMoritaのアバターでもある。ミライくんから見た私たち人間はどんな存在なのか、孤独に生きるミライくんは私たちの目にどんな風に映るのか、ぜひギャラリーで、そしてオンラインエキシビジョンでも、感じてもらいたい。

ホワイトストーン銀座新館

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