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大量のフィギュアが内包する現代の私たち|アーティストユニットthreeの最新展
2023.04.07
INTERVIEW
three『three is a magic number 19』Whitestone Gallery Karuizawa
漫画、アニメ、ゲームなどに登場するキャラクターのフィギュアを大量に用いた立体作品を数多く制作する、アーティスト・ユニットのthree(スリー)。嗜好品でありながら、時に所有者の生きる糧にもなるフィギュアを素材として使うことで、「大量生産・大量消費」や「アイデンティティ」など現代社会の根底を成すテーマを作品の主題に取り入れている。
ホワイトストーンギャラリー軽井沢では、threeの最新展覧会『three is a magic number 19』を2023年4月1日から5月14日の期間で開催。結成から10年を経たthreeの最新展を、メンバー・川崎弘紀へのインタビューとともにご紹介する。
three・川崎弘紀
何者かになりたい自己と群衆の中の他者
展示風景
漫画やアニメなどの文化醸造とインターネットの普及により、今や現代アートとしても受け入れられているサブカルチャー。キャラクターをモチーフとして作品に取り入れる作家も多いが、threeの場合は、サブカルチャーに無くてはならないフィギュアを“材料”として用いる。
何千体ものフィギュアをバラバラに解体し、時に切り刻み、熱で溶かし、単なる材料として使うことで、キャラクターに付与されていた個性が剥ぎ取られ、その他諸々と一緒くたになって、また別の作品へと還元される。threeの作品タイトルはほぼすべてが重さを表している。夥しい数のフィギュアが使われた痕跡を残すように、使われたフィギュアの重さをタイトルにしているのだ。
three《17.7kg_angel》2020, W850 × D450 × H1530 mm, フィギュア・塩ビ・木・ステンレス・鉄
川崎: インターネットの発達により、様々な人格が一同に集まると、それだけで巨大な『何者』かになれます。だけど、匿名性の強い個人によって創出された『何者』かは、見た目に反して脆く虚弱です。ひとたびノイズが生じれば、バラバラに崩れ落ちる可能性がある。大量の人格が凝縮された偶像は、群衆と個の、曖昧で危なげな関係性を僕たちに見せてくれます。
展示風景
バラバラに解かして溶かして潰して
フィギュア・トイと呼ばれることからも分かるように、フィギュアはおもちゃやグッズとしての意味合いが強い。しかし、フィギュアを制作する過程はアート作品の制作方法と変わりはない。最初にどの人物、クリーチャーを作るかを決め、大きさやポーズなどのデザインを決めて、次に原型師と呼ばれるクリエイターが原型を造形し、それをもとに大量の像が成形されたのち、彩色を施され、世に解き放たれる。
フィギュアとアートの関係について、作家は独自の視点から、人類史におけるフィギュアのアート性を考えている。
川崎:日本で立体作品のアートが売れないのは、みんながフィギュアを買っているからじゃないかな、と思ったりもします。赤べこやこけし、熊の置物を考えても分かるように、日本は昔から造形物に親しみを持っていた。使う素材は違っても、大きな意味で彫刻作品と言える。人と時代によって様々な様相を呈するのが彫刻で、その最新がフィギュアではないか、と考えています。
作家アトリエにて
フィギュアとアートの繋がりを見せつけるように、threeの作品も一般的な立体作品と作り方自体はそう変わらない。《17.7kg_angel》などの立体作品は、まず最初に粘土で原型を作る。次に石膏で型をとったのち、その型に半分に切断したフィギュアをパズルのように組み合わせながら貼りつける。その後は溶かしたフィギュアを何層かに分けて接着する、という方法だ。
展示風景より、表面のフィギュア素材は原型があるものの、中にはマーブルのように溶け合ったフィギュアが詰まっている。
制作方法はシリーズごとに細かく決まっており、例えば小型の「Bitシリーズ」は、1つのフィギュアを直方体に変換した作品である。
素材となるフィギュアを扱いやすいように、まずは解体・切断する。素材を小分けにしたら、ヒートガンを使ってフィギュアが溶けるまで温める。あとは型にはめこんで、固定するまで待つ。フィギュアの “顔” そのものはかろうじて原型を留めているものの、キャラクターが有するアイデンティティーは溶け合うように無くなっていき、色と重さを提示する直方体に集約される。
展示風景
始まりは魚型のプラ醤油差し
three《Tokyo Möbius》2009, Fish type soy sauce container, FRP, Water, Ink, W640 × D160 × H300 mm
threeは川崎弘紀、佐々木周平、小出喜太郎の3名からなるアーティスト・ユニット。福島県で中学時代をともに過ごしたものの、3人の繋がりはそれほど濃厚ではなかった。そんな3人がユニットを組むことになった原点は、メンバーの1人が卒業制作で制作した作品《Tokyo Baby》だ。魚型のプラ醤油差しで作られた子どもと見上げるほど大きな立体作品。トゲトゲしい見た目とカラフルな醤油差しが演出する見た目に、思わず足を止めてしまう。卒業制作の展示に立ち会ったことがきっかけで、3人はアーティストとしての活動を始める。
生産と消費、群集と個、都市と地域など、対立的かつ重層的な関係項に強い関心を寄せているメンバーたちは、展覧会のリーフレットを鑑賞者がセルフで切り取る《TakeMe》や、これまた大量の逹磨を壁一面に並べた《4746eyes》など、インスタレーション作品も積極的に制作している。
three《TakeMe》2019, PE tube, Exhibition leaflet, W5700 × D4200 × H2900 mm
three《4746eyes》2019, Takasaki daruma, W15350 × D70 × H3000 mm
最新作は原点に戻って
展示風景
今展では10年以上に及ぶthreeの活動が分かるよう、さまざまな作品が展示されているが、最新作では結成当初に考えていたアイデアが作品化されている。
川崎:フィギュアが溶けている作品が面白いんじゃないか。一番最初にユニット内で出た案は、互いに溶けあったフィギュアを作品化することでした。でも原型から離れすぎてしまうと、何を材料にしているかが分からない。
なので、コンセプトが伝わりやすいように、作品の表面は半分に切断したフィギュアを使用することにしました。そして切断面をあえて見せることで、中にはどろどろに溶けたフィギュアが詰まっていることを伝えています。
活動を続けていくうちに、「threeはフィギュアを使った作品を作っている」ということが定着してきたので、このへんで自分たちがやりたかったことを形にしよう、と最新作に着手しました。結局、設営ギリギリまで制作することになりましたが(笑)。
展示風景より、threeメンバーの川崎弘紀。
“three is a magic number”
本展のタイトル名であり、ユニット名の一部でもある「three is a magic number」はBob Doroughによる数え歌が由来となっている。3という数字は特別な数字であり、係数が変わる毎にどんなものにもなることができることを歌っている。
今後の展望について、川崎は「とりあえず続けること。やりたいことをやりたいように続けていくのは困難も多いが、それをやっていきたい。最新展では一番最初に作りたかったものを展示できたが、他にもやりたいことやアイデアが出てきているので、貪欲に作り続けたい」と語った。
無限に活動を広げていくthreeを軽井沢スペースとオンライン展示でぜひご高覧あれ。
展示風景
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