チェン・インジー: The Dust of a Long Journey
「北緯50度の冷たい風が吹き、雷雲が立ち込め、暗闇に時折光がちらつく森の中で、大自然の壮大さと奇妙さに衝撃を受けた。巨大さとちっぽけさ、疾走感と静けさが相対するこの場所で、時間は無限に流れていき、塵の粒子ひとつひとつが目に映る。突然重力が無くなる感覚がやってきたかと思うと、それは野性的なエネルギーとなり、創造における無限の、循環する、空漠たるインスピレーションの中で衝突し、調和した。」
-チェン・インジー(『Gravity』シリーズより)
ホワイトストーンギャラリー 香港では、中国人アーティストチェン・インジーの初個展『塵』〈The Dust of a Long Journey〉を開催する。 『Gravity』シリーズと『Shangri-La』プロジェクトで見られた哲学的思考と新たな絵画方法にフォーカスし、近年の創造的な文脈と発展を広範に展示する。
コロナ禍における世界的な変化の中で、チェン・インジーは人間と自然、生態と文明、自己と他者の関係について思いをめぐらせ、抽象性と具体性を兼ね備えたアクションペインティングを用いて芸術家と芸術の間に永続的に張り詰める力を探求し、刻々と変化する世界の中で個々の精神と地域文化を再発見する。
今回の個展では、『Gravity』、『Reconstruct Universe』、『Breaking』シリーズを含む20以上の作品のほか、作家の手稿や映像資料を展示。チェン・インジーが芸術作品に対し一貫して保持している強烈な個性と溢れる情熱だけでなく、あまり知られていない繊細で自省的な一面を垣間見ることができる。傍若無人でありながらも感情を内に秘めた作家の現在の探求心と、彼の絵画における矛盾と調和の豊かな”シンクロニシティ”を表現した。
『Breaking』は、ストリートペインティングの手法を革新的に取り入れ、中国文化の古典的なドラゴンのイメージを再現したシリーズ。ボディ、ツール、キャンバスを超えた関係の中で、自身の存在を定義していく。『Reconstruct Universe』は、彼の故郷である佛山の嶺南文化と民俗伝統をモチーフに、個人の経験と社会的・歴史的記憶が相互に作用して生み出された作品だ。絵画と音楽のフュージョンを強調しつつ、作品のもつ一貫した「ライブ」と「パフォーマンス」の特性が際立っている。このシリーズは全て、激しい音楽とリズムの中で生み出された。最新シリーズのひとつ『Gravity』は、中国風景画の伝統を活かして個性的なイメージを再現しながらも、最終的には固定観念を手放し、より抽象的で率直な表現になっている。山や川といった自然の超現実的な組み合わせであろうと、生物の細胞のように成長するブロックやカラーの使用であろうと、壊れやすくもバランスの取れた万物の生態系を作り上げるように。
雲南省シャングリラ地域で実施された『Gravity』シリーズの特別プロジェクトである『Shangri-La』では、写生と写意を組み合わせると同時に、モノクロカラーのシンプルさにフォーカスをあてて、線と気品を追求するという実験を試みた。これらの作品の中には山の中で即興で作られたものもあれば、スタジオで練り上げられたものもあり、さまざまなスケールの時間と空間の中で、表現者の内外に存在する柔軟な関係を投影している。会場で見ることができるツール、手稿、映像資料は脚注となり、様々な作品が入り組んで最終的にこの一人の芸術家の複雑な心に戻ることを、見る者に思い起こさせる。表現形式の変化は実生活と密接に関連しており、それはまた、変わりゆく時代の中での人生経験に、作家が謙虚かつ敏感に反応してきた結果である。
キュレーターについて:
万富は、香港を拠点に活動する独立キュレーター兼美術評論家である。「ARTFORUM」等、多くのメディアに寄稿。独立系アート評論誌「島聚」の創設者兼編集長。
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