アンドレアス・ミューエ: Pathos in Distance in Hong Kong
May 23 - June 27, 2020
ホワイトストーン香港では、著名なドイツ人写真家、アンドレアス・ミューエの回顧展『距離としてのペーソス in 香港』を開催いたします。香港における初のギャラリー個展となります。2004~2018年に制作され、主要な美術館に出品された作品を含む30点を展示いたします。ミューエは「真実」と「構成」という概念を往来し、ドイツ史の史料編纂とアイデンティティに重きを置き、写真が持つ力とその両義性について考察します。
自身の出自とドイツ史に対するミューエの関わり方は、彼の成長過程より影響を受けています。ミューエは、東独でもっとも評価の高い俳優のひとりであるウルリッヒ・ミューエが父、演劇界で著名な演出家であったアンネグレット・ハーンが母という文化的エリートの両親のもと、ドイツ東部ザクセン州に生まれました。ミューエの美学の中心には誇大妄想があります。彼の写真はパワフルで男性的であり、時に20世紀独裁政権とイデオロギーのイメージを追想させます。ミューエの作品では、幾つもの動機を使いこれらの美学を表す一方、撮影された場所が重要な意味を持ちます。例えば、シュヴィムハレ(『スイミングプール』の意)(2009)は、1936年ベルリン・オリンピックの際、選手拠点地のひとつとして使用され、現在は廃墟となっているプールを撮った写真ですが、この場所には明らかに歴史的文脈が存在します。また、ミューエの最重要シリーズのひとつ、『オーベルザルツブルク』では、主題となる人物が、ヒトラーの別荘があることで知られているオーバーザルツブルクの山中で、ドイツ軍の軍装姿や全裸となったりと、着脱の様々な段階を見せます。優越的なポーズを取る人物は、権力を可視化であり、この作品でも地理的な立地がドイツの歴史を暗示します。
A.M.アイネ・ドイッチェランド・ライゼ『A.M.‐あるドイツの旅』(2013)シリーズでは、写真が内包する両義性を扱っています。アンゲラ・メルケルに似た女性がリムジンの後部座席から、窓の外にあるドイツの文化的記念碑や景勝に富んだ風景を眺めています。ドイツ首相の視点から捉えたドイツのエッセンスを表しているように見えますが、実はこの女性はミューエの母親なのです。ミューエは、メルケル氏のアメリカ滞在に同伴した経験にインスピレーションを得て制作した作品を通じ、「事実」と「表層」とは何かを問いかけます。また、ミッシュポッヒェ(『家系図』の意)シリーズ(2019)の習作であるミューエ・コップフ(『ミューエの頭』の意)(2018)では、写真が連想させる力を表すことに傾注、風景を構成し、主題に演出を加え、美術史を仄めかす家族の集合写真を制作しています。この過程においてミューエは、自身の死する運命と身体の脆弱性を熟考し始めます。粘土という腐食し易い材料-人体が脆い様に-を用いて、彫刻家に作家自身の頭部の彫刻のレプリカを制作させます。『家系図』では、生きている者と死者、過去の記憶と現在の出来事が混在する家族の集合写真です。同様に『ミューエの頭』においても「イリュージョン」と「再構築」の瞬間を捉え、生きている者が腐敗していく様子を表現しています。ミューエ曰く、写真と「死」は非常に近しい関係にあります。なぜなら、写真に撮った瞬間とは既に過去であり、写真は時間を「捉えて」いるからです。ミューエの物語の語法である撞着語法は-’living-death’ (生きる喜びのない悲惨な生活)、’constructed reality’ (構成された現実)等-時間と現実を同時に超越し、本展でも展示されている『ミューエの頭』では、入念に制作された彫刻のいくつかの制作段階と断片が明かされます。
ミューエは、自らのイメージのなかで権力を持たせる方法として主題を用います。著名な政治家や音楽家とコラボしています。(『ラムシュタインアメリカ・カナダ・ツアー』)(2012)は、ドイツのロックバンド、ラムシュタインの挑発的な写真の記録です。サンタ・モニカのビーチやサン・アントニオでのドライブでも、バンドメンバーは全裸の状態で撮られています。ラムシュタインがミューエの主題に選ばれたのは偶然ではなく、ドイツ社会主義の精神をグロテスクに表現するその進歩的なスタイルのために選ばれ、現代の物語に歴史を挿入しています。
今展では、プローラ・ビーチ・リゾートで撮影された、ミューエの初期作品『プローラ』シリーズ(2004)も展示いたします。ナチスドイツが労働者のために作った未来型行楽施設で、北ドイツのリューゲン島に際限なく続く家々です。『プローラ』は、レニ・リーフェンシュタール-20世紀の最も重要なドイツ人映画監督のひとりで、ナチスドイツを称賛した壮大なプロパガンダ映画を制作したことで有名-の映画撮影法の遺産を強く想起させます。シュポルト(『スポーツ』の意)の男性は、筋骨たくましく、グロテスクな肉体を強調した作風です。ハイマート(『祖国』の意)では、ドイツ人というアイデンティティに対する強い執念を表しています。更に2011年にメルケル首相が訪米した際に撮影されたモノクロ写真シリーズ『アメリカ合衆国での28時間』(2011)も展覧いたします。
ミューエは、アナログ技術のみを使います。明度と入念な照明調整で主題の設定に努め、歴史的文脈を表すことによって魅力ある作品を作っています。それぞれの作品は、ユニークな視点を持ち、観覧者が過去と向かい合い、対話します。時に大胆で、時に繊細。ミューエは、最も重いテーマさえも、軽やかでユーモアを感じさせるイメージに変換します。またその逆も然り。愛国心、郷愁、誇大妄想を包含し、出自に立ち返り、理解、文脈、集団を設定します。ミューエの作品は、短い間見るだけのものではなく、恒久的であり、問い、考察し、自省を促さずにはおれません。事実とは何か、表層とは何か、現在とは何か、過去とは何か。作家は全てを問います。ミューエにとって「力」が全てであり『イメージをコントロールするものが事実をコントロールする』と公言しています。ミューエのイメージにある埋め込まれたペーソスと過去への思慕は、距離を置き、イメージ操作と欺きの中で見落とされたことを詳らかにします。
アンドレアス・ミューエ
1979年ドイツ生まれ。『家系図』等を美術館、文化施設に展示。ハンブルガー・バーンホフ現代美術館ベルリン(2019)、『アンドレアス・ミューエ/セバスチャン・ネーベ-イン・オステン・ニヒツ・ノイエス』(『東部戦線異状なし』の意)、G2 クンストハレ・ライプツィヒ (2018)、『アンドレアス・ミューエ:写真』赤レンガ美術館・北京(2018) 、『ドイツ8-中国でのドイツ美術』民生現代美術館・北京(2017)、パトス・アルス・ディスタンツ『距離としてのペーソス』の意)ダイヒターハレン・ハンブルグ(2017)、『アンドレアス・ミューエ/マルクス・リュペルツ-アンシャン・レジーム』クンストック美術館(2016)
『距離としてのペーソス in 香港』はギャラリーで開催される初の展覧会であり、代表作を展示している。
HK H Queen's 7-8/F
7-8/F, H Queen's, 80 Queen's Road Central, Hong Kong
Tel: +852 2523 8001
Opening Hours: 11:00 - 19:00
Closed: Closed: Sunday / Monday and Public Holidays. (Except special occasions or events)