この度、ホワイトストーンギャラリー新館ではフィリピン人作家のロナルド・ヴェンチューラの個展『Comic Stripes』を開催いたします。

ヴェンチューラにとって、現実とは素早く切り替わるスライドショーのようなものだ。そこには一過性のイメージの滑らかさはなく、「狭間」(“in-between”)の帝国が拓ける。それは雑誌を熟読したり、早回しに編集されたヴィデオを見るようなものだと作家は言う。生々しいイメージが脳内にうごめき合い、折り重なる。

前回ホワイトストーンギャラリー銀座新館で開催された『Comic Lives(コミック・ライヴス)』では、折り重なる現実の深淵を描いた作品を発表。幾つかの作品では、アニメーション的な眼差しや髪の毛が超現実的にラージュされ重ねられては(「重ね塗り」という単語はここでは避ける)女性像に落とし込まれる。それは立体であろうが、「ペインティング」(文字通り「塗ること」のメタ構造のように響くが)であろうが変わらない。

「速度、刹那、当惑」―これこそが実人生だ、とヴェンチューラは言う。
彼は自らの観察をシェアする。連日、我々はイメージの連続に消化不良を起こしているのだ。ケーブルテレビの夥しいチャンネル数、世界中に張り巡らされたネット網、携帯電話から発せられまとわりつく過重なシグナル音、など。オンラインショッピングには要注意、と作家は言う。指先には、買える商品が無限に列を成す―アクセスは瞬時、選択肢は果てしなく、意志決定は数秒内。

これこそが現実生活の悲劇的かつ喜劇的な側面である。我々はスクリーンの内部に生き、スクリーンは我々の内部にある。アナログな狂気のなかに、どれほどデジタル的手法が根を張っていることか。

人間の表情は「顔文字」のひとセットのなかに標準化されている―或いは、指、果物、雲、ビアジョッキ、ハートの目を持つ一角獣など、”ATM”(at the moment=その瞬間)に感じるものは何であれ、絵文字化される。英国では、生徒のシェイクスピア理解の一助として絵文字が活用されているという。ハムレットがナイフや王冠、恍惚の顔、舌を出した幽霊などのアイコンでどのように解釈されているか、想像してみてほしい。「蜜蜂か否か、それが問題だ」。

『Comic Stripes』と題された今展では、顔文字や絵文字が言葉の意味機能(シニフィアン)を奪取している現況を提示する。それらはもはや暗号やコードとして扱われることはなく、現代人の言説のなかで安息してしまっている。一般的で、ありふれていて、普遍的なのだ。「それらが基本的な図形や単純な象徴に陥ったとしても、たちどころに理解される」と作家は指摘する。我々はそれをたやすく我が物とする。壁画までもぽってりとした黄色い鳥で表現される。

こうした観察眼が、ヴェンチューラをして、ぼやけた境界ではなく、あえて鋭利な境界をもつ作品の制作へと至らしめてきた。

ヴェンチューラによる3種の異なる超現実的な少女像には、アニメーション的な目と絵文字の羅列が介在している。『Comic Lives』では宇宙飛行士やドナルド・ダックが散りばめられていたが、近作の絵画や立体作品では日本のポップ・カルチャーへのさらなる傾倒が見られる。「カワイイ」眼、巻き毛、鉄腕アトム、なると、ポップな色彩のなかに溶ける熊、など。不穏な兆しのうえに過重にのしかかる可愛さ。そこでは絵文字は単なる「重ね合わせ」ではなく、描かれた現実の一部であり、客観的に在る物のひしゃげた層(レイヤー)なのだ。
「映画『Who Framed Roger Rabbit』を覚えていますか?」と作家は問う。アニメと実写キャラクターがいかに存在のひとつの地平で相互に関連し合うかを指摘しながら。「世界は似かよったものに変りつつある。我々は現実と非現実をもはや区別できない。すべては完全に混ざり合い、すべてを同時に見渡すことができる。不具合は常態化している」。

表情がより活き活きとしたものとなった代りに、表現力は乏しくなったのだろうか?自らの感情を分かりやすいアイコンに昇華させることで、ときに複雑で厄介な真の感情に蓋をしたいのだろうか?我々のカワイイ眼は嘘をついているのだろうか?

—イガン・D’バヤン
2021年マニラにて

この貴重な機会を是非その目でお確かめくださいませ。

Ginza New Gallery

6-4-16 Ginza, Chuo-ku Tokyo, 104-0061, Japan

Tel: +81 (0)3 3574 6161

Fax: +81 (0)3 3574 9430

Opening Hours: 11:00 - 19:00
Closed: Sunday, Monday

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