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紙層に潜む色彩の探求|Azuki Furuyaの創作舞台
2024.05.31
INTERVIEW
水のように揺蕩う輪郭線、画面に浮かんでは沈む極彩色。一目見た時は謎めいた抽象的な絵が、輪郭線を追うように見入ると、徐々に情景が姿を現す。
Azuki Furuya は東京とニューヨークでアートを学んだミクスドメディア・アーティスト。紙素材を用いた物質的レイヤーとサンディングによる重層性、そして内側を包み隠さず露呈するかのような作品は、一度見たら忘れられない。長年の活動と試行錯誤を経て生み出された Furuya の作品の秘密に、その創作過程を通じて迫る。
Azuki Furuya : Sacred Contours, Whitestone Ginza New Gallery
Azuki Furuya の全てはドローイングから
紙でのコラージュ、サンディング、ペインティングなど、複数のメディアを用いる Furuya の制作は、緻密なドローイングから始まる。構図はもちろん、Furuya 作品の最大の特徴の輪郭線、色彩など、制作に必要なすべての要素が詰め込まれたドローイングは、まるで設計図のようだ。輪郭線となる流線は等高線のように、これから生まれる作品に奥行きをもたらす。
作家自身がセルフィーを撮影している様子を作品にした《Selfie》のためのドローイング。
重なり合う色彩の断層
「紙の見た目、紙を破った時のテクスチャが好き」と語る Furuya。紙という素材そのものに惹かれる作家は、ドローイングをもとにコラージュのための紙をカッティングし、8層ほどに重ねた紙を一枚一枚、丁寧にパネルに貼り付けていく。
ドローイングをもとにカットされた紙パーツ。
8枚の紙を全く同じように重ねるのは容易なことではない。糊付けの最中に重ねた紙のずれが生む偶然性の美が、流れる輪郭線に立体感を与えている。
カットした紙パーツをパネルに1枚ずつ糊付けしていく。
色彩の宝物を削り当てる
部屋に鳴り響く高音の機械音と、舞い散る紙塵。重ねた紙を削る作業は、複数ある工程の中で Furuya が最も好む作業だという。重ねられた紙の層は高音とともに削り取られ、徐々にその色を明らかにしていく。
サンディングの様子
「一番好きな工程は、やっぱりサンディングでしょうか。大事なものを発掘した感覚が、非常に好きです。その分、紙をカットして貼る作業が一番大変です。削った時に思い描いていた色のレイヤーが出て来た時に、頑張って良かったなと思います。だからこそ、どれぐらい削れば出したい形や色が出てくるかということを、常に考えています」
不規則に露呈する色層からは粗くざらざらとした紙独特の質感が見てとれる。絵具では表現できない、絶対的な物質感が鑑賞者に直に働きかける。
理想の色を探し求めて
サンディングした紙レイヤーの部分をコーティングする。
過去には鉄板を支持体として用いたり、重ねる紙の枚数を変えたりと、さまざまな試行錯誤を行いながら、現在の作風を確立した Furuya。制作の最後は、油絵具で画面の色調にさらに深みを加える。アクリル絵具や水彩絵具など様々な種類がある中で、Furuya は絵画において最もメジャーな油絵具で仕上げを行う。
油絵具で仕上げ塗りをする様子。
色を重ねるという行為は、Furuya にとって単なる制作方法という以上に、アートに向き合うための根本的な目的でもある。積層した色彩から固有の色を削り取る行為や、異なる色の絵具を組み合わせて自分だけの色を作る行為は、悠久の組み合わせの中からその時々の真実を見出す行為でもある。
作品が語る、女性たちの生き方
北海道出身である作家のニューヨークでの生活は、異国の地で自国の文化を振り返る絶好の機会だった。その中で Furuya が興味を惹かれたのが日本の「遊女」だ。実在した遊女たちの煌びやかな側面と、苦界で生きることの過酷さを作品にしたいという思いから、ニューヨークでの活動中は遊女や花魁をモチーフにした作品を数多く制作した。
Azuki Furuya 《Procession of Courtesans》
日本に帰国後、初個展となる『Sacred Contours』(聖なる輪郭)では、Furuya の眼差しは依然として女性に向けられる。かつて遊女が巫女の役割を担っていた歴史を背景に、女神や名画の登場人物、そして現代の女性像までを描き出す。絵画や写真を通じて、社会に浸透した女性像の変容と、その時代ごとの変遷を作品は語る。特に今展では裸婦を描くことに焦点が当てられ、Furuya はその伝統にオマージュを捧げながらも、独自の視点を加える。
Azuki Furuya 《Hetaira, Rising from the Sea》2024, 91.0×65.2cm, パネル・アクリル・油彩・コラージュ・ミクストメディア
Azuki Furuya : Sacred Contours, Whitestone Ginza New Gallery
作品が完成した後、Furuya はカットした紙の残りとサンディングの際に出た紙塵を使って別作品を創る。灰という意味で「Ashシリーズ」と名付けられた同シリーズは、火の鳥が灰から蘇るように、作品制作の残滓が新たな作品へと昇華される。
作品で繰り広げられる無窮の身体性と、作品が別作品へと変容する循環。この二つの永続性が、Furuya の作品を唯一無二のものへと押し上げる。
ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、Azuki Furuya の個展『Sacred Contours』(聖なる輪郭)を2024年5月31日から6月22日の期間で開催。Furuya の作品を通して、拡散する身体の輪郭をご高覧ください。