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境界を越える視野:ドナルド・キャメロンが創るデジタルとアナログのアート融合

2024.08.23
INTERVIEW

ドナルド・キャメロン

芸術は常にその時代の最先端技術を取り入れながら進化を続けてきた。特に写真の発明は、美術史において大きな転換点であり、それまで絵画が担っていた写実性の役割が、写真という新たな技術に取って代わられたのである。そして現代では、AIの登場により、デジタルアートが創造性の新たな表現の場となり、アートは再び変革を迎えている。

ドナルド・キャメロン は、グラフィックデザインの技法と伝統的な油画技術を融合させ、新たな表現の可能性を追求するアーティストである。彼は、美術史において最も伝統的なメディアである油絵と、現代のデジタル技術を掛け合わせることで、デジタルとアナログという双対的な構造を提示し、私たちに視覚的な思索を促している。本記事では、キャメロン氏本人へのインタビューを通じて、彼の作品に込められた意図やメッセージを探っていく。


ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL


Donald Cameron

ドナルド・キャメロン "Patina" 2024, 56.0 × 83.6 cm, Oil and ink on linen

ー「ACIDSKYPIXEL」というタイトルには独特な響きがあります。このタイトルの由来は? また、今展では全作品を通じて「山」「山脈」が描かれていますが、これにはどんな意味がありますか?

ドナルド:山は誰もが認識できるイメージであり、象徴的である一方、意味を投影するための白紙でもあります。異なる2つのメディアの対比を表現したいという私の願いから、視覚的な複雑さを持ちながらも理解しやすいイメージとして山を選びました。山はほとんどどんな主題でも使用することができますし、これまでの作品では、同様の効果をもたらす人物、廃墟の家、巨大な抽象画を描いてきました。

「ACIDSKYPIXEL」というタイトルは、この展示に出品する作品に対する私の個人的な印象を詩的に表現したものです。「酸」は、冷たい黄色や緑色の色調を指し、レモンやライムのような酸味を感じさせる視覚的テーマを表現しています。「空」は、山脈の上に広がる大空を指し、純粋なパターンが山の上で踊る様子を表しています。また、「ピクセル」は、絵画に不自然に存在するデジタル的な要素を指しています。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL, Whitestone Ginza New Gallery

ーどんな風に作品を制作するのですか?

ドナルド:私はまずストック写真を使用し、グラフィックデザインのプロセスでパターンを組み合わせ、イメージを作り上げます。制作したイメージをインクジェットプリントし、最後に油絵具でペイントするのです。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL, Whitestone Ginza New Gallery

ーデジタル・プリント上にペイントを施す制作方法は独特ですね。デジタルと油画をミックスさせようと思ったきっかけは何ですか?

ドナルド:私はグラフィックデザインのプロセスを使ってイメージを作り上げ、そしてデジタルプリントの上にペイントを施すことで、2つの異なるイメージを同時に描いています。今展でいえば、山とその上に描かれるパターンです。この複合イメージには、デジタル画像に見られるような線と色の複雑さがありますが、これは手描きで仕上げているのです。

デジタルメディアと手作りメディアを別々に分類するなら、私はデジタルメディア特有の要素を手作りのイメージに引き入れたいと考えています。この矛盾した状況にこそ、独特の面白さがあるのです。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン "Sanctuary" 2024, 119.5 × 88.5 cm, Oil and ink on linen

ーデジタルとアナログの違いについて、どのようにお考えですか? アナログからデジタルへの移行について、どのように解釈し、どのように制作に反映されているのでしょうか?

ドナルド:デジタルからアナログへの移行は、画期的でありながら、十分に理解されていない部分もあります。スクリーンが発する光には、紙や布に反射する光にはない、目を引く力があります。

さらに、デジタルメディアの無限に複製可能な性質や、スクリーン技術の普及により、40年前には見ることができなかった何万もの個別の画像を、今日では毎日目にすることができるようになりました。このような変化の影響は計り知れませんが、活発な議論がなされていないのが現状です。

油絵のようなアナログメディアを扱う者として、「なぜ絵を描くのか?」という疑問は常に頭に浮かびます。しかし、プリントの上に描くことで、伝統的な手作りメディアに即時性、一時性、そして現代的な関連性を持たせることができると、私は考えています。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL, Whitestone Ginza New Gallery

ーあなたの作品には、光の結晶が乱反射するような幻想的な模様が見られますが、これらの模様にはどのような意味が込められているのでしょうか?

ドナルド:パターンは、イメージに複雑さを加えるための要素です。もしアーティストが山と4つの透明なパターンを同時に描こうとすると、人間の脳の処理能力の限界にすぐに達してしまいます。しかし、グラフィックスプロセッサを使えば、人間では実現しえないあらゆることが可能になります。こうしてデジタル技術を取り入れることで、作品に新たな次元がもたらされ、より深みのある表現ができるのです。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン "Aspect" 2024, 56.0 × 83.6 cm, Oil and ink on linen

ー最後にアーティストとして活動するようになったきっかけは何ですか?あなたの芸術的な道を決定づけた経験があれば教えてください。

ドナルド:私は幼少の頃から、二次元の視覚的な刺激に非常に敏感でした。また、色にも強く反応し、共感覚を感じることが多くあります。私にとって、色は味覚やpH、温度と同じような感覚でありながら、同時に色相、彩度、明度の定量的な組み合わせでもあるのです。

Donald Cameron

ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL, Whitestone Ginza New Gallery

私たちは何かを見るとき、それが山であれ、人物であれ、家であれ、常に自己の反応を通してしかその対象を認識できない。つまり、私たちは物事を完全に客観視することはできず、それぞれが自分だけの風景を描いているのである。しかし、それに気づかないまま過ごしていることが多いのではないだろうか。

ドナルド・キャメロン の作品は、アナログとデジタルが融合する現代アートシーンにおいて、彼の二次元的な視覚への鋭敏な感受性や、色彩を鮮明かつ直感的に捉える共感覚が色濃く表現されている。「ACIDSKYPIXEL」というタイトルは、直訳すれば “酸味を帯びた空の色調” とでも言えよう。キャメロン氏が感じた色彩、景趣、温度を、ぜひその作品を通して体感してほしい。


ドナルド・キャメロン: ACIDSKYPIXEL


『ドナルド・キャメロン:ACIDSKYPIXEL』は、ホワイトストーンギャラリー銀座新館にて、2024年8月2日から8月31日まで開催。作品はオンラインでも鑑賞・購入することができます。この機会に、ぜひご覧ください。

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