30年前、画像というものが世界規模で画期的な変化を遂げた。すなわち、アナログからデジタルへの移行である。様々な芸術形態がこの転換期に勃興した。「グリッチ・アート」などは、発展途上にあるテクノロジーがエラーを繰り返す格好の例である。しかしながら画像の質が向上するにつれ、デジタル由来ゆえの画像の独自性は薄れてしまった。それまで数千年にわたって先行していた視覚文化とは全く異なるロジックで制作された事実までが社会から忘れ去られ始めた。デジタルの画像生成ツールとその周辺テクノロジーは、その見事なグラフィクスで画像制作者に世界を攪乱たらしめ、我々の知覚をも変えることに成功した。社会におけるイメージ受容能力は感情過多の閾値（いきち）をむかえ、その状況は15世紀にヨーロッパで砂糖が工場で大量生産され始めたときと類似している。そこで次のような問いが生じてくる。この新たなイメージが結ぶ像にはどのような意味があるのか？その関連性は？同じものを再び見ようとするなら我々はどうすべきなのか？

今展はそれらの問いに心地よい解答を用意するのではなく、さらなる疑問の種を増やすことになるかもしれない。そもそも、何が「デジタル画像」であり、何がそうではないのか？同一文脈での「アナログ」との比較で、これら二元論の差異の境界はどこにあるのか？展示されている作品は、二元論的には片側にあるべきものが、同時にその対極の属性も帯びていることを示している。それらはレイヤー構造とパターン、マスキング、イメージの反復といったグラフィック・デザインの技法を駆使してはいるが、メディウムは綿布に油彩という伝統的なものである。「デジタル」の意味を概念化し、改めてこのテクノロジーというものが我々の体験をどのように変革したのかを確かめ、かつ、我々の眼がほとんど無自覚であるところの視覚革命というものを想像し直す契機となることを願いつつ。