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日常に存在する豊かさ溢れる生命力:ファン・ピン・トンインタビュー
2025.01.15
INTERVIEW
もっちりとした質感の小さな足、豊かな膨らみの多肉植物、そして新たに現われた、ふわふわとした雲。写実的な彫刻技術で温かみとエネルギー、そして自信に満ちているのがファン・ピン・トンの作品の特徴である。今回の展覧会「日日悠悠」では、「多肉植物」シリーズに加えて、新たに「雲」シリーズが登場。雲をモチーフに選んだ理由や、新しい取り組み、今作のこだわりなどを作家に尋ねた。
「雲」の親しみやすさと終わりなき変化
ホワイトストーンギャラリー台北
ーこれまでは植物をモチーフとした表現が多かったように思いますが、新作の「雲」シリーズについて、どこから着想を得たのでしょうか?
ファン:創作のインスピレーションは、日常生活で見かける身近なものから得られることが多いです。親しみやすい題材を通じて、温かさや生命力に溢れた豊かな状態を表現するのが好きです。そのため、特に丸みを帯びた形状が好きで、日常の中で同じような感覚を与えてくれるものを探し続けています。
ある日、常に私たちの周りに存在する雲に気づきました。雲は水のエネルギーに満ち、自信と安らぎを醸しながら、軽やかにゆっくりと漂っています。この穏やかな状態は、多肉植物シリーズで伝えたい「自分のペースで成長し、自信に満ち、豊かさを感じる」というメッセージと共通しています。
まばゆい太陽や月に比べると、雲はしばしば引き立て役を担い、人々はその存在に慣れてしまい、時には見過ごされがちです。しかし、雲は豊富な水分を含み、地球の万物の命を潤す力を持っています。また、雲の変化は終わりがなく、実に多様で、美しい風景を次々に見せてくれます。
雲のない世界を想像することができません。それはきっと非常に退屈でしょう。こうした思いから、雲をテーマにした新しいシリーズの制作を始めました。
形が定まらないものの質感を作り出す工程
ホワイトストーンギャラリー台北
ー「雲」シリーズの着色や表現など、これまでの作品制作プロセスから変えた点や工夫した点はありますか?
ファン:雲の有機的でふわふわとした形状の特徴は、非常に頭を悩ませるものでした。植物や動物には基本的な形があるのに対し、雲は一見シンプルに見えますが、実際に立体的に制作してみると、形が定まっていない題材ほど、クリエイターの観察力や独自の解釈が試されることを痛感しました。
どのようにして硬い木材を不規則な形状の立体に仕上げながら、軽やかでふんわりとした雰囲気を作り出すか?これらを実現するために、雲の一つひとつの塊の大きさや配置を綿密に調整し、形状が規則的になったり、塊が硬く見えすぎたりしないよう、多くの時間と労力を費やしました。
また、色彩についても普段の着色方法を逆転させ、立体の凹んだ部分に白や鮮やかな色を塗ることで、雲の内側から光がほのかに透き通るようなエネルギーを視覚的に感じられるようにしました。これにより、木彫りの作品もより軽やかに見えるようになりました。
ファン・ピン・トン《星花綻放》2024, 113.2 × 124.8 × 69.7 cm, アクリル・油彩・銀箔・木
ー今個展で特にこだわった点を教えてください
ファン:今回の個展では、多肉植物と雲のシリーズ作品を同時に展示しています。多肉シリーズの新しい表現を広げるだけでなく、新たな題材である雲も探求しました。どちらのシリーズも、生命のエネルギーに満ち溢れ、悠然とした落ち着きを感じさせる特徴を共有しています。
特に力を入れて制作した作品の一つは、雲と植物という二つのテーマを融合させた「星花綻放(咲き誇る星の花)」です。この作品は、エネルギーに満ちた雲から力強い植物が成長し、星のように輝く花を咲かせる様子を描いています。全体の雰囲気は、個展のタイトル「日日悠悠」の核となる精神に呼応しており、彫刻の構造は劇場のように設計されています。穏やかで日差しの差し込む天気の中、何の心配もない、心地良いひとときを表現しています。
その中でも葉っぱ、蝶、花びらはエネルギーに満ちているため、厚みがあり豊かさを感じさせます。また、雲や葉脈には光のような明るい色彩が透けて見え、内側に満ちた生命力をさらに強調しています。
強烈な対比から産み出される生命のたくましさ
ホワイトストーンギャラリー台北
ー「多肉植物」シリーズは、前回から新しくなった点はありますか?
ファン:植物の成長や花の開花は、常にその生命力がもたらす様々な感動を私たちに与えてくれます。特に多肉植物の強靭な生命力は広く知られています。これまでの多肉植物をテーマにした作品では、甘美で愛らしい雰囲気を感じることができましたが、今回はその中でも「塊根植物」に焦点を当てた作品を制作しました。
塊根植物は多様で独特な形状を持ち、特にふっくらとしたボリューム感と、乾ききった風格ある表皮が特徴です。私はこの塊根植物の荒々しい外観に、赤ちゃんの滑らかで丸みを帯びた足を組み合わせることで、強烈なコントラストを生み出しました。この対比は一見すると異質に思えるかもしれませんが、不思議と調和を感じさせると同時に、生命のたくましさと希望を力強く表現しています。
ホワイトストーンギャラリー台北
ー準備期間中はどのように構想を練っていたのでしょうか?これまでと変化はありましたか?
ファン:雲をテーマにした創作を決めた後、雲のさまざまな変化や象徴的な意味に基づく作品を計画しました。展示の際には、雲をより軽やかに見せたいという考えから、壁に掛けられるレリーフ作品を制作しました。
レリーフは立体的な木彫りとは異なり、より多くの制約があります。限られた厚さの木材の中で、遠近感のある空間を表現する必要がありました。前後の奥行きを層ごとに配置するだけでなく、膨らんだボリューム感を保ちながら、正面から側面へのラインが滑らかに繋がり、自然に収束するよう仕上げることは、作者としての技量が問われる挑戦でした。
ホワイトストーンギャラリー台北
自然の豊かさから溢れる発想:込められた願い
ホワイトストーンギャラリー台北
ー今後取り組んでみたいことや表現していきたいこと、新たな構想はありますか?
ファン:現在、赤ちゃんの足を組み合わせた植物、動物、雲をテーマとするシリーズには、さらに発展させたい作品がたくさんあります。また、これまで発表していない自然物を題材にした作品についても、研究やアイデアを深めています。さらには、「もし作品に赤ちゃんの足がなかったら、どのような表現ができるだろうか」というテーマについても考えています。
美しい自然は非常に豊かで多様性に満ちており、創作の題材が尽きることはありません。皆さまにこれからの作品をぜひ楽しみにしていただければと思います。私は作品を一つひとつのピースとして捉え、それらが今の自分を記録し、さまざまな美しい願いを込めたものだと考えています。そして、それらがやがて心を打つような美しい世界へと組み上がることを期待しています。
ホワイトストーンギャラリー台北
日常の中にある身近なものから、自然の豊かさや生命力を感じ取れるファン・ピン・トンの作品たち。写実的でありながらユニークな彫刻はあたたかみがあり、生命力に溢れている。その豊かさに触れる機会をぜひ体験してほしい。
ホワイトストーンギャラリー台北でのファン・ピン・トン個展『日日悠悠』は、2025年1月24日まで開催。オンラインでも作品をご覧いただけます。