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ファン・ピン・トンが彫り出す木彫の魅力|子供たちの囁き展インタビュー

2022.10.05
台湾

ホワイトストーンギャラリー台北はファン・ピン・トンと寺倉京古によるグループ展「Fairy Whisper」(日本語タイトル:子供たちの囁き)を2022年9月3日〜10月15日の期間において開催。両者ともに赤ん坊や幼い子どもをモチーフとした作品を制作しており、ファン・ピン・トンは写実性の高い彫刻技術と、自然物と赤ん坊の融合という奇抜な造形が魅力の木彫アーティストだ。ファン・ピン・トン作品の特徴でもある幼児の四肢を作品に取り入れた理由や、今展出品作品のメインシリーズで一度見たら目が離せない「生命の樹」シリーズ誕生の経緯、作家の木彫に対する想いや制作におけるこだわりをインタビューした。

ファン・ピン・トン《Light of Life》2022, 21.5×97.3×87.2cm, 木・アクリル

最も純粋な幸福と喜びを呼び起こす赤ん坊をモチーフに

ー黃品彤さんが制作する作品は、赤ん坊のような四肢、特にやわらかく小さな足が特徴的です。幼い子供の四肢を制作に取り入れた経緯を教えてもらえますか?

ファン・ピン・トン(以下ファン):足は体と心をどこへでも運んでくれる体の一部です。モノに生きた足があれば、見る人の愛情や共感を呼び起こしやすくなり、他人の立場になって考えることができるようになるのではないでしょうか。モノの立場で考え、感じることで、人とモノの間にある溝は埋まります。

幼い子どもは最も純粋で気楽な心の状態を表す存在で、見る人に楽観的な感覚を与えてくれます。それは、存在が有する本来の純粋さを熟考するよう促す場合であれ、生まれたばかりの子供の画像を見るときであれ、同じです。愛し、世話をしたいという内なる衝動は、私たちを複雑な人生から切り離し、最も純粋な幸福と喜びを呼び起こす力を持っているのです。これこそ、私が芸術活動において求め、切望している崇高な衝撃なのです。

左から、ファン・ピン・トン《The View of Summer Mountain》《The View of Spring Mountain》2022, 12.0×14.5×17.3cm, ポリエチレン・ラッカー

ー黃品彤さんの作品にみられる赤ちゃんの足は、見ているだけで顔が綻んでくるほどリアルに表現されています。赤ん坊の足を彫り出すために何か工夫をされていますか?

ファン:現実はゼロ距離の存在であり、生きている存在です。

ボリューム感はどんな時でも彫刻の最も魅力的な側面の1つである、と私は考えています。そのため私の彫刻へのアプローチは、ボリュームの押し出しによって生まれる線のバリエーションと、その相互関係によって成り立ちます。ボリュームの強さとディテールの変化がもたらす最も本質的な要素は、作品で表現されていることが実在すると人々が直感的に感じ、そして新生児の繊細な肢体が形全体を動き回ることで、希望と幸福の表現に繋がるのではないでしょうか。

毎日の生活の中で多肉植物を観察していると、私は彼らの青々とした体を改めて認識することができました。赤ちゃんのふくよかさに比べて、多肉植物は膨らんだフォルムをしています。しかし、変幻自在でありながら、それぞれの植物の構造と力学、そして周囲の環境との間には、秘密の関係があります。私は植物の成長過程から、植物がその身体を通して成長の法則を示していることも発見しました。

希望と幸福に溢れた幼児と、植物が自ら示す成長の法則。この2つのイメージを組み合わせ、植物の生命力を内側から表現する作品を制作することで、無限の生命エネルギーの内なる源泉を明らかにしたいと考えているのです。

展示風景より、《Summer Breeze》2022, 40.3×84.5×116.6cm, 木・アクリル

木そのものの美しさを魅せる新シリーズ「生命の樹」

ー今展では2022年にリリースされた新シリーズ「生命の樹」が多く展示されています。同シリーズは黃品彤さんの作品に特徴的な赤ちゃんの足と多肉植物を掛けあわせたビジュアルが共通していますが、このシリーズにはどんな意図がありますか?

ファン:木は人間の象徴であり、一人ひとりの人生の歩みが、固有の魂の状態へとつながっていく。私は木という概念を用いて個人の精神的な姿を表現しようと試み、その結果として「生命の樹」シリーズを作りました。

そもそも私は、それぞれの木の美しさは異なるべきだと考えています。木彫の制作過程で素材と対話したり、木の質感を感じていると、特に年輪の様子から、それぞれの木が明確で美しい生命を持っていることを感じ取ることができます。木を観察することで、植物自身の物語が立ちあらわれるのです。

魂の内面が活力に満ちていると、私は多肉植物たちの個性的な成長に気付かされます。エネルギーが安定しているからこそ、その植物にふさわしいタイミングで美しい花を咲かせることができる。多肉植物を通して、個々人の内面を映し出す美しい情感を伝えていきたいと考えています。

展示風景より、最新作「生命の樹」シリーズ

ー今展は2021年と2022年に制作された作品が多数を占めています。コロナ禍を経て、制作やモチーフの選定に変化はありましたか?

ファン:実は「生命の樹」シリーズの基本的なスケッチは2016年にすでに出来ていましたが、実際に制作に取り掛かったのは2019年頃です。

2020年から2022年にかけてのパンデミックの影響で、人々は家で過ごす時間が増え、生活空間に気を配るようになりました。台湾では、混沌とした時期に少しでも安らぎを得るために、自宅やベランダで植物を栽培することがトレンドになったんです。そんな生活の中で、私は長年育ててきた多肉植物をじっくりと観察するようになりました。その成長ぶりや、太陽の光を浴びてエネルギーを蓄える姿から、人が本当に必要としているのは「静寂」と「安定」なのだと実感しました。私たちもいつの日か、自分の中に美しい花を咲かせることができるようにと願っています。

「生命の樹」シリーズのスケッチの様子。

ー今展「Fairy Whisper」というタイトルでの2人展です。寺倉京古さんは陶芸作品を制作しているアーティストで、子供の丸みを帯びたビジュアルが黃品彤さんの作品と共通しているように感じます。黃品彤さんは寺倉さんの作品をどのように感じますか?

ファン:寺倉さんの作品に初めて出会ったとき、私は穏やかな気持ちになりました。彼女の作品は、時に軽く目を閉じて瞑想しているような、休息しているような、あるいは夢を見ているような表情を見せます。また、あるときは静謐な表情を浮かべ、私たちの核である本来の精神世界に立ち返るよう、本質を伝えています。

また彼女の作品は、ひらめきと安らぎを与えてくれる存在です。情報の変化が激しく、慌ただしい現代において、寺倉さんの作品は、一歩踏み出し、感情を落ち着かせ、自分が一番何を欲しているのかを理解する大切さを思い出させてくれます。作品が持つ穏やかさで、誰もが笑顔になれますよね。

Exhibition installation view of Miyako Terakura’s work

奇抜な造形スタイルを裏打ちする高い写実彫刻

ー黃品彤さんは台湾芸術大学彫刻科を卒業し、その後現代写実の彫刻家として有名な楊北辰のアシスタントを努めるなど、一貫して彫刻で制作されています。黃品彤さんにとって彫刻の魅力はなんでしょうか?

ファン:部屋の中にある彫刻には、私の頭の中にある考えが反映されています。彫刻として表現することで、彫刻フォルムのバリエーションをより広い視点から見ることができるかもしれません。また、彫刻と空間が会話をするように繋がることで、愉しさがさらに増します。木の温もりや柔らかさに幸せな光を感じたり、彫りのリズムがだんだんと緩やかになってリラックスできたり、ボリュームや形の変化が感じられたりする時、私は木彫に深く魅了されるのです。

作家アトリエにて

ー使用する木材や彫刻刀、彩色のための絵の具など、材料や道具に何かこだわりはありますか?

ファン:私の制作において最も重要なのは、私自身の状態です。だからこそ、日常生活における複雑な問題や変化に細心の注意を払っています。冷静さを忘れず、自分の直感に忠実に耳を傾けるのです。作家活動では、辛抱強く、ゆっくりとした気持ちで制作に取り組み、安らぎを常に感じています。良い作品を作るためには、もともとの明るい性格に加えて、鋭いカービングナイフも欠かせません。

作家アトリエにて

ー今後の展望や新たに制作で挑戦したいことを教えてください。

ファン:将来は、生命や自然に対する私自身の理解や感謝の気持ちを取り入れながら、彫刻を通してより大きく挑戦的な表現で、自然の景観美を表現していきたいと考えています。今は自然と人間との密接な関係や豊かな多様性を感受性豊かに表現することに興味があり、このメディウムの魅力を際立たせる、より多様なエートスを創造するのが楽しみです。

作家アトリエにて。

ーそれでは最後にひと言お願いします。

ファン:私は、心を癒す作品は愛を広げる行為だと考えています。作品を通して、人を思いやる気持ちや、温もり、幸せ、喜びを感じてもらえることが、クリエイターとしての最大の喜びです。

ファン・ピン・トン《Early Summer is Coming》2022, 24.3×22.5×47.7cm, 木・アクリル・油彩

今展「Fairy Whisper」でお披露目された新シリーズ「生命の樹」は、多肉植物と赤ん坊の足の融合という奇抜なスタイルが目を引く作品だが、近くでじっくりと見れば、まるで本物のような赤ん坊の四肢や植物、そしてぬくもりを感じさせる木目が作品の更なる魅力となっていることに気付く。展覧会では「生命の樹」シリーズの制作の様子を動画で公開している。作品の詳細や制作の工程を、オンラインエキシビジョンでもぜひご覧あれ。

展覧会詳細はこちら »

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