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作家・鑑賞者・作品たちの邂逅|神木佐知子2人展インタビュー
2022.11.09
台北
自らの身体を確かめるかのようにポージングしたり、悩ましげに視線を投げかける黒橡の人物たち。鮮やかで大胆な色彩を特徴としてきた神木佐知子の展覧会『Encounter』がホワイトストーンギャラリー台北で開催されている。
今展は神木佐知子と雨夜来による初めての2人展。神木は“三人称“、雨夜来は“動物性“という作家独自の視点から、人間の感情や存在意義を表現する。同会場で開催された前展覧会から2年を経た今展。神木の作風や心境の変化を作家にインタビューした。
展示風景より、《Cardiac》2022, 162.1×130.3cm, アクリル・キャンバス
作家・鑑賞者・作品たちの邂逅:Encounter
ー今展は『Encounter』というタイトルの2人展です。『Encounter』は日本語で「遭遇」や「邂逅」という意味ですが、制作はどのように進みましたか?
神木:今回はふたり展という、“私”と“相手”がいる空間での展示なので、その中にいる “第三者” つまり作品の中の人物を意識しました。
制作中は思うまま主観的に描く時間と、客観的に研究し点検する行為を繰り返しました。作品のなかの人体表現はリアルな人物とは違いますが、描いた人たちの心情や性格を表情以外からも伝えることができるように線を引いています。
展示風景より、手前が神木佐知子、奥が雨夜来の作品。
ー台北での展覧会は2020年の個展『Tetrad』以来、2回目の展覧会となります。
神木:前回台北のギャラリーを訪れた際、空間が上に高く開けていて、広い会場なのに個々の作品と1対1で対話できる感覚を味わったんですね。その印象が強く残っていたので、今回はできるだけシンプルな人物像を描き、観る方が立ち止まって向き合えるような展示にしました。
展示風景より、左から《Middle》《Right Side》《Left Side》2022, 162.1× 97.0cm, アクリル・キャンバス
コロナ禍で辿り着いた「余白の美」
ー2020年の前回の個展では、色とりどりの色彩と植物相が鮮やかにキャンバスに踊る作品が印象的でした。
神木:前回の台北はコロナ禍で社会が様変わりした真っ只中での展覧会でした。コロナの影響で世界が重苦しい場所になったので、できるだけ明るい色を選ぶようにはなっていましたね。
それまでの日本はオリンピック開催が決定し、世間的にも明るい雰囲気が漂っていた時期だったので、作品のテーマでは重たいものを選ぶようになっていたのです。でも世界が逆転したことで、今度は作品を明るくしようという考えになったので、自然と作品も鮮やかになっていました。
2020年に開催された神木佐知子個展『Tetrad』Whitestone Gallery Taipei
2022年制作の新作《Day Off》のクローズアップ。遠くから観ると黒一色の人物の肌も近くで見ると様々な色が使用されているのが分かる。
ー前回の展覧会とは対照的に今展ではシンプルな構図とシックな配色が目を惹きます。前回展覧会からどのような変化がありましたか?
神木:色というよりも余白を意識するようになりました。
以前アーティストのミズテツオ氏が私の作品を見た時に「余白が一番大切なんだ」という事を仰っていたのです。その時は「何を言ってるんだろう?」と不思議に思っていたんですが、その言葉が頭にずっと残っていたんです。だからその言葉を常に考え続けているうちに、余白を考えながら制作するようになりました。
手数を無理やり増やすのではなく、そこに手を入れる意味をもっともっと考えなければいけない。余白に関しては今も探索中の謎です。
展示風景より、左から《Lie Down》《I Know》2022, 145.5×112.1cm, アクリル・キャンバス
ー余白とともに人物描写も大きく変化したように思います。今展の出展作品は個性的なポージングが目立ちますが、作品の構成はどのように決めますか?
神木:今展ではシンプルな人物像を描きたいと思って制作に取り掛かりました。構成は事前に決めて描き始めるんですが、結局どんどんどんどん崩れていくんですよね。その偶然が一番面白かったりするんですが。
ー普段から構成やドローイングなどをする方ですか?
神木:キャンバスに描き始める前に下絵をびっしり描きますが、その通りにいった作品は今回1つもありません(笑)。 中には9割がた終わったという所になって、「やっぱり違う」と感じて描き直した作品もあります。
ー新しいキャンバスに新しく描き直すのですか?
神木:いえ、完成間近の作品を描き直します。最初にあった形から別の姿に変えるように描き直すことで、もともとあった形を引き継ぐような面白い形が生まれるんです。
ー偶発的な過程を作品に落とし込んでいるのですね。
神木:そうですね。この制作方法がずっと続くのかは分からないですが、今はそういう風に制作しています。
当初正面を向いていた人物を後ろ姿に変えた《Figure》2022。9割ほど終わっていた作品を夜中に「やはり違う」と思い直し一から制作し直したという。
これまでは鮮やかで大胆な色彩と象徴的なモティーフが特徴的だった神木。しかし今展では、性格・感情・時間といった人格形成に欠かせない要素までもが盛り込まれたような人物像がシンプルな構図でキャンバスに描き出されている。神木佐知子と雨夜来による邂逅がもたらすものは何か、訪れたものが作品とどんな遭遇を果たすのか。ぜひ会場とオンラインエキシビジョンでご覧あれ。