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神木佐知子個展『Parody』|作家インタビュー
2024.01.31
EXHIBITION
神木佐知子 ホワイトストーンギャラリー北京にて
アーティスト・神木佐知子の個展『Parody』がホワイトストーンギャラリー北京で開幕した。世界を一変させたパンデミックでの経験を通して、人々の生活に煌めきをもたらしたいと考えた神木。展覧会ごとに異なる様相を見せる作家の意欲的な制作活動に、アートメディア・Artislが作家インタビューを通して迫る。
1. ホワイトストーンギャラリーで行う個展『Parody』を楽しみにしていますが、本展のテーマや新シリーズの創作ヒントを教えて頂けますでしょうか?
神木:今作ではわかりやすい記号化された人物像(アリス)や物(ハリボー)を用いることで、現代アートの入口をわかりやすくしようと考えました。
アートにこれまで触れてこなかった方々の現代アートへの苦手意識を軽減し、「わからない」が第一にくるのではなく、面白いという気持ちや、この色が好き、もっと見ていたい、など間口を広くしたかったのです。またアートに常に触れている人たちにとっても、深く考えすぎるのではなく、シンプルに前向きなパワーを得られるような作品作りを目指しました。
2. 今回の展示作品の創作手法について、今までと比べて変わったところはありますか?
神木:コロナ禍を経て、世界を重苦しく閉塞的に感じるようになり、できるだけ明るい色を使うようになりました。コロナ禍前はアートが風刺、現実が楽観的なファンタジーのように感じていたことが、コロナ禍後は現実世界を風刺に感じてしまいました。それならばアートの中でくらいポジティブさを感じて欲しいという考えに変わった部分があります。
3. 作品には人物の身体が多く描かれていますが、どのような手法で人物の姿を表現しているでしょうか? 抽象的な手法について具体的に影響を受けている流派はありますか? また、ご自身の絵画スタイルやジャンルをどう定義していますか?
神木:人物を一旦完成させた後に、キャンバスを逆さまにしたり、人物を左右反転して上書きするように描きながら、最初に描いた線を変えていきます。一度に描き上げないことで、あえて違和感のある姿態を作っています。流派はありません。私は1枚の作品に対して長く悩むタイプなので、何度も塗り重ねていくスタイルができあがりました。
4. 今展の作品には女性が多く登場していますが、理由はなんでしょう? また、作品の女性はほとんどが横顔で描かれていますが、何か特別なメタファーがあるのでしょうか?
神木:今回は女性のアイコン的存在を多く描きたいと思ったので、女性を主なテーマにしました。横顔は自分自身で見ることが出来ない視点です。その人物の素顔や油断を見ることができるので、描くのが楽しく、モチーフとしてよく使っています。
神木佐知子《Monroe》2023, 162.0 × 130.5cm, Acrylic on canvas
5.《Monroe》や《Diana》等の作品にはモデルとなる人物の特徴が画面の中で巧みに表現されています。どのように要素を抜粋し、ご自身の絵画言語に転換されていますか? また、どのようにして彼女たちのイメージを絵の中で表現しているのでしょうか? 何か特別なストーリーはありますか?
神木:その人物の写真をなるべく多く見たり、彼女たちのストーリーを調べながら、作品の中でどう表現するかを考えています。
神木佐知子《Apple or orange》2023, 116.7 × 91.0cm, Acrylic on canvas
6. あなたの作品は色彩の使い方が非常に独特で、コントラスト配色を使用していますが、創作ではどのように色彩を使っているのでしょうか? また色彩と構図の関係をどのように考えていますか?
神木:色彩は感覚で決めていきますが、非常に悩む部分です。構図と色彩がうまくマッチしないとチグハグな画面になってしまうので、何度も塗り直しをすることが多いです。特に今展では、顔に蛍光色などの色味を塗ったので、作品と顔の色味を合わせるのに、塗り重ねや塗り直しを繰り返し行いました。
神木佐知子《Alice》2023, 145.8 × 112.1cm, Acrylic on canvas
7. 色彩と構図に加えて、あなたの作品には多様な質感が細部まで描かれています。作品《Alice》について、創作過程と技法を簡単に説明して頂けますか? また、異なる技法を作品に取り入れるために、どのように組み合わせてますか?
神木:元々は「レジンサンド」というザラザラとした粒状のものを混ぜて作品を作ることで、画面に凹凸を出し、作品に陰影を出していました。近年のプラスチック問題で生産終了となりつつあるので、レジンサンドに変わる技法を考えようと今展では思いました。そこで、一度キャンバスを暗い色味で塗り、直接手で絵の具をキャンバスに何層も塗りつけて、レジンサンドと似た陰影を作っています。異なる技法を組み合わせるのは、感覚で行なっています。
8. 「チョコレート」や「ハチミツ」など、今展の作品には甘い要素がいくつか登場しますが、これらの要素を用いる意図は何でしょうか? また甘美さは女性たちとつながりがあるのでしょうか?
神木:作品に登場する女性の人物像は、誰もが一度は見たことのある職業や象徴的なアイコンを用いています。それに合わせて、アイコニックな食品をモチーフにしました。既視感のある存在を、私の作風に落とし込むことを意識しました。
9. あなたの創作活動は現在の社会環境に頻繁に影響を受けているようですね。芸術的な創作を通して、境遇や社会環境をどのように表現していますか?
神木:昨今、日本では女性の社会進出が進んでいるという背景が、今展で女性像が多い理由のひとつです。今展で描いた職業やアイコンは、知名度の高い象徴であるとともに、抑圧され消費されてきた存在でもあります。マリリン・モンローやダイアナ元妃といった方々はあくまで美しいポスターとして飾られるべき存在として消費されてきましたが、興味深い存在としても見られることが多くなったように思います。このような変化が表層化しつつある状況も、今展で表現した理由のひとつです。
10. 制作のなかで繰り返し使用しているイメージやシンボルはありますか? これらのイメージやシンボルに何か特定の意味や象徴がありますか?
神木:認識できるものを扱うことで、何を描いているのか? という疑問で終わらせないこと。世間で広く認識されているものを、作る側の独自性でいかに面白く、奇妙さが出せるかを念頭にアイデアを考えています。
11. 将来的に他のメディアでの創作に挑戦する機会はありますか?
神木:もちろん、面白いと思うものがあれば挑戦していきたいです。芸術的創造の領域において、自分自身に挑戦し、新たな可能性や表現を探求していくつもりです。
神木佐知子 ホワイトストーンギャラリー北京にて
12. ホワイトストーンギャラリーはあなたのアーティストキャリアの中でどのような役割を果たしていますか? また創作の発展にどのような影響を与えていますか? 他地域の展覧会と比べて、北京での展覧会の特色は何でしょう?
神木:非常に成長させてくれる場所です。ホワイトストーンギャラリーは日本国外に多くのギャラリーを持っていることもあり、今まで触れてこなかったアーティストさんを知るきっかけも多いですね。
ホワイトストーンギャラリー北京での展覧会は、他の地域でのこれまでの展覧会に比べ、中国の芸術市場において影響力と人気があるので、より多くの観客や市場と接することができ、地元のアーティストや文化と交流することができます。私にとって、自分の影響力と創作の視野を広げる貴重な機会です。
13. 今後の展望を教えていただけますか?
神木:短いスパンで展覧会を頻繁に開催するというよりは、ひとつひとつの展覧会に多くの時間を費やして、作品を作っていきたいと思っています。納得がいくまで悩み、自分が良いと思えるものを多く創作していきたいと考えています。また、私の作品を観た時に、事前情報が無くても、神木佐知子だと思ってもらえるような作品づくりに邁進していきます。
Text From Artisl