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ルーツを辿り、装飾の本質を問う:京森康平の新たな視座

2025.03.31
INTERVIEW

アーティスト・京森康平は、古今東西の装飾を組み合わせた、緻密なパターンと鮮やかな色彩を特徴とした平面作品を発表してきた。現在ホワイトストーン銀座本館・新館の2館で開催中の展示では、これまでの装飾をメインとした絵画作品だけでなく、自らのルーツを辿るモノクロ写真・映像・インスタレーションなど、内面に踏み込みつつ、より表現の幅を広げた作品を展開している。今回の展示会をどのような試みで取り組んだのか、京森康平の新境地をインタビューを通してお届けする。

「装飾の本質とは?」—見せることと隠すこと

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

これまで一貫して「装飾」と向き合って制作を続けてきた京森。今回は、これまでとは異なる視点から新たな世界を作り上げた。新館の1階で展開されるのは、本展のタイトルである「Decorative Man」=「装飾男」の部屋として構成されている。ブランド品の箱が積み上げられたインスタレーションや、自己啓発本と自分を鼓舞するようなメモ書きが置かれた机、映像作品が流れている箱などが置かれている。

「デザインやファッションなどの世界に憧れを持っていた、アートの道に進む前の部屋を展開しています。タイトルにもある『Decorative Man』というのは、自分も含めてですが、中身がなくて、表面を取り繕ったりうまく見せることが得意な人物を想像しています。これは自分の中の原点でもあるし、多くの人にも共通して言えることではないかと考えて、テーマにしました」

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Whitestone Ginza New Gallery

今回の新作の絵画シリーズは、『Luxury Painting』と名付けられた。京森の特徴とする柄が特徴的だが、これは壁紙からの連想だという。実際の展示も、作品から拡張した壁紙が一面を覆っている。

「『Luxury Painting』は僕の中での定義だと、ある種虚飾性を強調するような壁紙なんです。壁紙は汚れを隠し、よく見せるという要素があります。柄自体のモチーフなどにも意味がなく、いわゆる内面を人に見せたくない、その外側を飾っている様子です。僕がずっとやっている絵画の技術として、レジンを使ったり箔を張ったりして、そういう光沢感を出す表情を作っています。中身がないものとか、覆うための飾りである壁紙です。そういう表層的な価値観みたいなものが表面にこう出てくる様子を表現しました」

見せるための装いは、同時に隠すための手段となりうることを京森は示す。人が誰しも多かれ少なかれ抱えているであろう、人によく見られたいという欲求を、『Decorative Man』は浮かび上がらせている。

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Whitestone Ginza New Gallery

「装飾の起源」—田舎で生まれた少年が見つけた美学

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Whitestone Ginza New Gallery

一方新館の2階では、これまでの京森の作品イメージとは打って変わった、モノクロの世界観が演出されている。過去に京森が実際に住んでいた実家の写真や、映像作品、更には実家にあった柱を展示している。

「ずっと装飾にまつわる作品を制作してきたんですが、なぜ自分が装飾とか飾ることをこんなに考えるんだろう?と疑問が浮かんだ時に、幼少期や原体験に踏み込んでみたんですよね。実家が過疎地区の田舎の酪農家だったんですけど、田舎者というコンプレックスが自分の中にあって、あまり人に言いたくなかった。家畜を扱ってるので匂いのことや、家が結構オンボロだったりとか、農作業をずっとして過ごしていたとか、そういう人にあんまり見られたくないものあると言うが物心ついた頃からずっとありました」

中学生の時にグラフィックデザイナーになりたいと漠然と思っていたと言う京森。コンプレックスに対する逆のベクトルや反動、憧れが働いていたという。

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京森康平《その生き物たちに名前はなかった。》 Undated 40.0 x 60.0 cm, Inkjet print / Pencil text on matte paper

「そう考えた時に、自分のこの見せたくなかったものとか幼少期のこととかを、今までの活動では全然見せてこなかったし、それは隠したかったことで、それこそが装飾的であることと何かしら関係があるだろうな思い至り、今回の展示に繋がりました」

自分の見せたくない過去を、覆うことから作品が生まれた。映している映像作品も、プロジェクターの前に鋳造した牛を置いて、わざと遮るような形で展示している。立体作品には、レジンをかけている中に牛乳を入れて加工している。京森のルーツに繋がる作品たちだ。

「要は自分の過去を飾っています。実家の風景の写真に、ホルスタインの柄をグラフィックで合成しています。あえて覆うことによって見えづらくすることが、ある種飾っていると言えるのではないかと考えています。写真は記録するメディアなので、自分と向き合うにはよりリアルというか、直接的なメディアだと思うんですよね。だからこそ、覆うことにもより意味が出てくる」

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ホワイトストーンギャラリー本館

「絵画の場合、画面構成を自分で決められるので、物語として描き出せる。今までの作品では、装飾という概念に対して、歴史の中では貴族や王族が飾ることによって力を保持してきたんじゃないかと思って作っていた。絵画の中の物語から外に出ようと思った時に、写真というメディアを選びました。絵だと多分想像で濁せると思うんですけど、写真はそこにあるものを切り取るので、自分のものと向き合うにはよりリアルというか、直接的ですよね。そしてだからこそ、上から覆うということにすごく意味が出てきます。記録を上書きするとは言わないですが、過去を上から覆ってるニュアンスが出てくるんです。そこに僕が信じる美が提示できるのではないかと」

京森が信じる美とは、「装飾をずっと信じてきたので、その密度とルール」だと考えている。「ルールとかリズムとなると、どこで間を作るとかどう組み合わせるか?という個人の価値観になりますが」

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Whitestone Ginza New Gallery

ルーツを超えて、次なる表現へ

これまでの作品を好んでいたファンからしたら、驚いたのではないだろうか。しかし、京森はこれまでは感覚的なビジュアル表現から、この時代に生まれて、自らの生き方をしたから今につながっているということを示したかったという。

「アーティストがやってることって、自分を曝け出して、何か気づきをもたらすものだと考えていました。今回の展示を見た方からも、『これまでと大分違う』と指摘された。けれど面白かったのは、飾ってある柱を見て、実は自分の田舎でもこういうところがあったという話をしていたことです。他人の原風景を想像させられるのがアートの面白さだと思いますね。今、社会とどう繋がるかということに興味があるから、こういうインスタレーションをやっています」

そんな京森が選んだのが、ルーツを探ることだった。正直にさらけ出すのはどうだったかを尋ねると、「してこなかったし、したくはなかったが、でもするべきだとは思った」と語る。

「本当だったら美術を始める場合、自分を深掘りして、自分の表現はどこにあるのかとか、内面を見つめて、そこから表現を始める。で、僕の場合は逆だったんですが、それが本質だったんだろうと思います。

僕の場合、言語化よりも感覚的にこれをやるべきだと思ったことをやっていました。それがデザインとかファッションだっていうことをやってきたんですけど、その延長にアートという表現があったので始めたんですよ」

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Whitestone Ginza New Gallery

グラフィックデザイナーからファインアートの世界へと活動の場を移し、一貫して装飾を突き詰めてきた京森だが、今回大きく方向転換をしたきっかけを聞いてみた。

「去年の秋にヨーロッパを回っていて、中でもドイツでいろんなギャラリーがある街を訪れた時でした。あまり人がいない中でも、多くはないですが、いろんな人がいた。僕はギャラリーで作品を見てもよく分からないものがすごく多かったんですが、ヨーロッパには、分からないものを分かろうとして見てる人たちがすごく多いと思ったんです。日本ではエンターテイメントや広告がすごく発達してるっていうこともあって、分からないものに対して、すごく深く考えるということが少ない。僕自身ももっと勉強したいなと思えました」

その体験が、京森に新しい視点をもたらした。

「もう少し深く考えるものとか、社会とどう繋がってるか?みたいな、コマーシャルとはまたちょっと違った側面のアートっていうものを、自分の中でもう少しできることは何だろう?と考えたのがきっかけでした」

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ホワイトストーンギャラリー銀座本館

「それこそ海外に行った時にもっと勉強したいなと思ったし、アカデミックな部分にも乗り込もうとしています。それをある程度入れたり、自分で分かったり、アートの業界の人たちのことも理解できるようになってきたら、多分そこから戻ったり、それを否定したりというような感じで、ぐるぐる回るんだろうなというのを分かった上でそこに行こうとしてるって感じですね」

今後はどういう方向に進んでいくのか、という問いには「飾ることよりも、自分のアイデンティティからどう作品を作っていくか」を突き詰めている。地方出身の京森は、今都会で生活している環境で、地方都市と都会の関係性を見つめていた。

「最近新しく出来た建物って画一化されている感じがするんですよね。自分が生まれてきた田舎には、いわゆる画一化される前のものが残っている。そこにある装飾というのも、様々な国々の文化や伝統、クラフトとかはずっと残り続けてきた、守ってきたものたちなので、そこから何かこううまく表現できないかな?というのを今探っています」

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京森康平

装飾は時に社会的なシンボルとなり、時には個人の記憶や感情を覆い隠すための手段となる。京森の作品は、その両義性を鮮やかに描き出している。

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