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清濁の混在を「レイヤー(層)」に重ねて|遠藤仁美 インタビュー

2023.09.28
INTERVIEW

遠藤仁美 Group Exhibition of Gifted Artists:Dimensions II

現代アートの未来の一翼を担うべく、ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、気鋭のアーティストたちによる『Group Exhibition of Gifted Artists:Dimensions II』を開催する。新たな才能発見と表出の機会であるとともに、複数の作家の作品が同一空間に存在することは鑑賞者のみならず、作家自身にも新たな視点をもたらすだろう。

本展では6人のアーティストたちの内なる世界に迫るべくインタビューを実施。同じ質問を投げかけることによって、彼らがなぜ現在の表現へと至ったのか、そして彼らの作品が映しだす現代社会とアートの関係を解き明かす。

上書きによって強化される、差異の痕跡

遠藤仁美《CLOUDY PARK》2022, 130.4×162.3cm, カンバス・アクリル

1. 制作を始めたきっかけ、そして今も続けている理由は?

ー私が制作を始めたのは母が絵を描いていたことがきっかけです。母は家の壁に自分の絵を飾り付け、 眺める場を作りました。 私は幼い頃に誰かの部屋を明るくしてくれる絵を作りたいと考え、今もそれを信条に制作しております。

2. 自分自身が考える、あなたの作品の特徴は?

ー私の作品は、見たものや感じたものを画面に描いては消す行為を繰り返すことで成立しています。普段の生活で目に映るもの、聞こえてくる言葉などを無作為に「記憶ノート」に描き留めておき、そこからインスピレーションを得て、図像をピックアップしながら作品をつくり上げます。「記憶ノート」とは、自分が体験したことや、そのときに感じたことを保持して、後に思い出すための手掛かりです。

消し残った跡を繰り返し重ねてゆく行為からは、図像そのものというよりも、それらの差異を通して意味が立ち上がることになります。何かを刻み付け、次にそれを消し、消したものを痕跡として蓄積する。いわば、肯定と否定の繰り返しを通して、これまでとは違う新しいものをつくる行為です。

描いたものを上書きすることは、自由を求める表現につながっていきます。

遠藤仁美《見つめていたい》2022, 162.3×194.0cm, カンバス・アクリル

3. キービジュアル《見つめていたい》はどんな作品?

ーある日、夢をみました。

そこは見たことがない美しい風景で、馬になった私、知らない母子と森で歩いてました。どこにでもある風景なのに、夢で見た景色はとても美しく、初めて見るような世界に感動しました。私はそこが天国なのかわかりません。この夢が今までみた夢の中で一番心地いいのですが、同時に禍々しさと恐怖を感じる夢です。私はこの夢を見るたびに、楽園なのかそうではないのかと考えてしまいます。

この世界を再現するため、様々な角度の線をレイヤーとして重ね、現実と夢の境界線を作りました。線の中に風景があり、夢を見るたびに重なって消えていく儚い記憶の3つの風景や人物を組み合わせて、3層構造で描いています。

4. 影響を受けたアーティストや作品は? その魅力は?

ーエゴン・シーレに影響を受けました。

私は浪人時代、油絵具の色の使い方に悩んでいました。どの絵の具を使っても色が汚くなってしまう現象の解決策を探し求めていた時、神田の古本屋で見つけたのがエゴン・シーレの画集でした。エゴン・シーレの極端にねじれた身体造形と表現主義的な線と色彩は、生臭くみえるような、とても独特な絵の具の使い方で、私はその色彩の使い方と斬新な構図に感動しました。

それ以降、汚いと綺麗の境い目を意識しながら制作をしています。

Group Exhibition of Gifted Artists:Dimensions II

5. あなたにとって「アート」とは?

ーアートとは、時代とともに移り変わる経済・環境問題・政治・技術のなかで発展し、進化していく重要な存在だと考えています。人には、幅広さ、豊かな受容性、規定されながらもその枠を限りなく広げていく力があります。

それだけではなく、アートと触れ合うことによって自身の個性を確立し、枠にはまらない考え方や価値観を見つめ直し、何が真実で何が美しく、何が良いかを問う姿勢を見出してくれる存在だと思います。

6. 今回のグループ展に期待することは?

ー全く予想のつかない、とてもいいグループ展になると思います。

7. 今後の展望は?

ー現在、立体作品の制作を行っています。今まで思案していた立体のアイデアを試しているところです。どんなものが出来るのか自分でもわからないのでドキドキしております!

遠藤仁美《フェイス》2021, 65.3×53.0cm, カンバス・アクリル

非現実と現実の狭間を、儚くも独特の覚醒感で描き出す遠藤仁美。澄明な色彩感とテクスチュアは、爽快さとノスタルジーをもたらす一方、言語化できない異質さで、観る者を不可思議な世界へじわじわと惹きこむ。

『Group Exhibition of Gifted Artists:Dimensions II』は、2023年10月21日まで。ホワイトストーンギャラリー・オンラインストアでは同展覧会をいつでもオンラインでご覧いただけます。

展覧会詳細はこちら »

遠藤仁美《船》2020, 33.4×33.4cm, カンバス・アクリル

遠藤仁美
1990年生まれ。2019年東京造形大学美術学科絵画専攻領域卒業。同年、『第33回日洋展』にて損保ジャパン日本興亜美術財団賞を、2020年『第16回世界絵画大賞展』にて東京スライダ賞を受賞。2021年『FACE展2021』入選。2022年には月刊美術第10回美術新人賞『デビュー2022』にて満場一致のグランプリに選出され、グランプリ個展『今日も馬は夢を見る』が東京で開催される。『Idemitsu Art Award 2022』、『FACE展2023』でもたて続けに入選を果たし、今もっとも期待されているアーティストのひとり。風景画に仮託しつつも自己の心の奥深くが柔らかく照射された画風は、幻想的かつ新鮮な存在感。繊細な色彩感覚で刻まれるレイヤー構造は、独自のゆらぎと律動で観る者を異空間へといざなう。

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