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90歳を超えて尚現役として活動したアーティスト・上前智祐にインタビュー

「CHIYU UEMAE」ホワイトストーンギャラリー本館

具体美術協会に関して発行された書籍『GUTAI STILL ALIVE 2015 vol.1』をデジタルアーカイブとしてお届けするシリーズ企画。第5回目は具体の創立会員であり、1972年の解散まで在籍した数少ない人物である上前智祐にインタビューを行った。自身の作家活動から始まり、具体の中心人物である吉原治良との出会い、具体在籍時の作風の変化、そして晩年の制作について、気取らない様子で語ってくれた。

92 歳にして現役のアーティスト・上前智祐は「具体美術」から本格的な活動を始めた。現在、アメリカから大きな関心が寄せられ、美術館などでの展覧会が行われる

―今年はアメリカのロサンゼルス現代美術館での展覧会やアートフェアで大成功を収めたと聞いていますが感想はありますか。

上前 大変うれしいです。展覧会に出品する作品はありますし、まだ制作しています。これからも海外で多くの方々に見ていただければ嬉しいと思っています。

―今年の春「軽井沢ニューアートミュージアム(KaNAM)」の開館記念展「軽井沢の風展 日本の現代アート1950―現在(いま)」の中で上前先生の作品が大きく取り上げられて以来の、慌ただしい展開になりましたが、どうお思いですか。

上前 作品を知ってもらえるようになったことにはとても感謝しています。しかし、私としては正直なところ、こうなることを別に考えたことがありませんからね。ただ、毎日、創りたい作品のことがあって、それをどうしていこうかということくらいしか考えていませんから。

―今も、作品制作が忙しいのですか。

上前 僕は僕として作品を作りたい。このアトリエにあるように、今までは、おが屑とかボンドで固めた作品を創っていましたが、もうこういう仕事もできないし、だから版画を創っていくしかない。以前は自分で工房に通って、版画を創ったことがあるんですよ。ところが腐食や、さまざまな作業に物凄い時間のかかる仕事なので、今は版画は指示をして人に刷ってもらっているわけです。これも20年以上は付きあっている銅版とシルクの二人の刷り師がいますから、僕の考え方を知っていますからね。

―作品のアイデアはどんどん出てくるわけですね。

上前 今でもアイデアはどんどんでてきている。版画ならいくらでもアイデアが浮かんできますね。なぜかというと版画といえば、これはもっとも現代美術として改革していく可能性がある表現です。アートのことを考えだしたら寝られないほど、やりたいことが出てきますね。自由に考えて版画を捉えてやっていくと、いろんなことができますね。

―こうして現在も旺盛に制作されている先生からすれば、すでに遠い昔の話になるでしょうけど、戦後の「具体美術」が注目されていて、その作家として上前先生も取り上げられてきたわけですけど。先生にとっても「具体美術」は重要な出会いでしたか。

上前 そうですね「具体美術」というのは、私にとっては大きな影響を受けたものですね。当時は戦後で、新しい美術をという気運があって、もちろん僕の中の意識もそういうことに向いていました。最初は第二期会の第一回展(1947年)に入選しているんです。それで京都の黒田重太郎先生の教室が京都にあったので、私は舞鶴から通いました。ところがその教室で学ぶことよりも、京都へ行ったということが大きな変化に繋がりました。京都の百貨店でね、大きな展覧会で自由美術の大作が並んでいたわけです。これには物凄く感動してね、もう舞鶴におってはあかんということで、その頃はクレーンの免許証もらって、それで初めてその免許証で神戸にでてきたわけです。

―美術を本格的にやってこうということで職にも付いて万全の体制で臨んだわけですね。

上前 その後、その二期会に半具象の作品を出品したんですが、100号などの作品5、6点が全部落とされました。それで反発してね、何というか悩んで悩んで、どういう風に自分の作品が新しい作品で行けるのかなということを考えていったわけです。そしてその頃に、吉原治良の、もうとんでもない作品に出合った。最初はこれでも作品かと僕は思いましたね。クレパスの会社が展覧会を開催していたわけですけど、その中の吉原治良の作品は人を馬鹿にしたようなもので。それまで名前は知っていたけど、あんな有名な人がなんでこんなしょうもない作品を描くのかと最初は思いました。それでも、この人と一度話してみたいと吉原治良の家に一人で行ったんですよ。

―それは「具体美術」が設立される前ですか。

上前 1952年ですから、2年前ですね。その当時は、いつもデッサンが足らんデッサンが足らんと他の先生たちに批判されていました。ですから吉原治良のところに行ってもデッサンが足らんと言われるやないかと思ったら、そんな生易しいことではなく、彼ははじめから「こんなもの俺のところに持ってくる作品と違うやないか」と、頭から言われたわけです。

―それはショックでしたか。

上前 変わった作家ですし、言われても、尊敬していましたから、そこから一週間に1回か2回ぐらい作品を持って見てもらったんです。そうしているうちにだんだん吉原治良の言っていることが理解できて、作品制作の方向性も分かってきました。

―吉原治良のところにきているのは他の作家もいましたか。

上前 いましたね。その人たちはちょっとアクションがかった作品が多かったと思います。僕もアクションがかった作品が一応よくなったと言われたけど、しかし僕自身はそういう作品は僕の心がけている内にあるものとは違うということを感づいて、自分自身の納得のいく作品を創っていきました。

―白髪一雄のようなパフォーマンス系とはまた別の方向ですね。

上前 やはり自分の内にあるものを表現したいという気持ちはあるわけです。だから、例えば点、点になる場合でも、点と点の色の組み合わせ、この色とこっちの点と、色合わせのようなものですね。だからこの色が違うというように、とにかく色合わせのようなもので、その点点も変わっていくわけです。

―「具体美術」の中でも自分自身の表現を大切にして、それを追究されてきたんですね。二期会で具象から半具象に変わり、そこから「具体美術」でその流れをより明確に確立してきたわけですね。

上前 それよりも僕は小学校を出て京染の洗い張りの丁稚奉公しているわけやけど、そこですでに具象系の作品がほとんど見られない訳だよ。すべてが抽象と言うよりもデザイン。そこでも僕が学んでいるという意識はないにしてもすでにそこで興味を持っていたわけ。柄にしても、縦じまの矢絣(やがすり)にしても、いろんな柄があるでしょう。まず、生地、織物そういうものにしても自然に興味を持つわけですよ。だから、親しみを持って言えるわけで。いまではファイバーアートという言葉はあるけど、その時分にはファイバーアートという言葉もなかった。

―美術を意識して制作する以前から伝統の中で早くから自然に学んだということもあるんですね。

上前 そうそう。

―先生の作品は非常に丹精をこめて、時間をかけて制作する作品ばかりだと思いますが、タブローとは別の「縫い」の作品も先生の中では大きな位置がありますが、小さい頃からの奉公で自然に身に着いた世界でもあるわけですか。

上前 僕が力説したいのは、やはりこの縫いの作品ですよ。これはものすごく変化するし、人が僕の作品を見て、この縫った作品を見て物凄く感動してくれます。その縫いの作品は、作り方もいろいろ変化している。構想ははじめから考えてやっているけど、縫うということで、いろいろ変化してくる。はじめはねファイバーアートと違うという意識があるから、皆、作品を枠に張っていた。枠を作って張るだけでも大変なことだったね、ちょっとでもゆがむと駄目だから。この縫いの作品を制作すると、首が痛いもんだからね、去年は接骨院に通って、治してもらおうと思ったけど、ところが良くならない。手も上がらんようになって、それで、神戸大学の病院に行って、縫い作品をやっていて手が上がらなくなったと言ったら、そんな筈はないと言うわけです。病院も分からんわけよ。だからまあ、一応、手が上がらんからね、首から麻酔のブロック注射を打ってね、そんなのに通いながら痛いのを我慢して縫いの作品を作っていたわけです。

―それほど過酷な状態で仕事を続けられるということですか。それまでしても作品を制作している。

上前 そうですね。時間がかかってもやはり仕上がるということに対しては歓びがありますから。時間がかかることは最初から意識して制作しているわけですけど、自然にそういう風になって行くわけです。これではちょっと違うなとか、そういうことを考えながらやっていく、その続きを重ねていくということになると思います。

―タブローも縫いも、時間のかかる仕事ですが、嫌になることはないのでしょうね。

上前 嫌になることはないです。ないからここまで続いている(笑い)。

―本当ですね。これからもいろいろと忙しくなると思いますが、お体を大切に制作に励んでください。ありがとうございました。

(月刊ギャラリー12月号2012年に掲載)

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