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具体解散から50年|国立国際美術館で観る具体美術協会
2023.01.04
ART NEWS
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より、国立国際美術館
日本の戦後美術史において大きな存在感を持つ前衛集団「具体美術協会」。解散から50年という節目の年に、同集団が活動の本拠地としていた大阪・中之島で具体の活動を振り返る展覧会「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」が開催されている。隣り合う美術館2館での共同開催となる珍しい展覧会を、国立国際美術館を舞台に紹介する。
国立国際美術館で統合される「GUTAI」
国立国際美術館外観
2館同時開催という類い稀な形式で開催される今展「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」は、「分化と統合」というテーマのもと、新しい具体像の構築が追求されている。
「統合」をテーマを掲げる国立国際美術館の展示では、「握手の仕方」「空っぽの中身」「絵画とは限らない」という示唆的な3つテーマによって、“一枚岩”ではなかった具体という集団がどのように活動を展開したのか、その変遷に迫る展覧会となっている。
展示風景より、手前に見えるのは白髪一雄《赤い丸太》1955/85, 兵庫県立美術館(山村コレクション)
展示空間が全て地下に設計されている国立国際美術館では、エレベーターを降りるとすぐに、白髪一雄《赤い丸太》1955/85 が鑑賞者を出迎える。
人間精神と物質の「握手の仕方」
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より
最初のテーマである「握手の仕方」は、具体の絶対的リーダーであった吉原治良が「具体美術宣言」で語った一文に由来する。
「具体美術に於いては人間精神と物質が対立したまま、握手している。物質は精神に同化しない。精神は物質を従属させない。物質は物質のまゝでその特質を露呈したとき物語をはじめ、絶叫さえする。物質を生かし切ることは精神を生かす方法だ。精神を高めることは物質を高き精神の場に導き入れることだ」
人間精神と物質が対立したまま、握手をする。この状態を体現するべく制作されたタブローたちが展示室内で存在感を示す。
マッチ棒や着古した布を用いた上前智祐や、砂・石を混ぜたコールタールを画面いっぱいに敷き詰めた吉原通雄、カンヴァス上で和紙とガラスを渾然とさせた白髪富士子、絵具を詰めたビンをキャンバスに叩きつけるなどの制作方法で絵具を従来の従属的な役割から解放すべく「絵筆処刑論」を唱えた嶋本昭三など、物質の可能性そのものに意味を見出そうとした作品が、鑑賞者を出迎える。
展示風景より、吉原通雄《作品A》1959, 兵庫県立美術館(山村コレクション)
展示風景より、右手に見えるのが嶋本昭三《1961-1》1961, 大阪中之島美術館
一方で、タブローにおける従来のマテリアルの使い方は継承しつつ、その表現方法で物質の自由性を担保しようとした作家もいた。キャンバス上にぶちまけられた大量の絵具の上を滑走する制作方法で知られる白髪一雄をはじめ、算盤や櫛を用いた鷲見康夫、ラジコンカーの自動性に注目した金山明など。
そして、キャンバスをリズミカルに駆け巡るような正延正俊の筆跡や、鑑賞者の視線をそこかしこに霧散させる名坂有子や、猶原通正たちが制作した作品を見れば、人間と物質の握手の仕方が多種多様であることが十分に見てとれる。
展示風景より、白髪一雄 《天雄星 豹子頭》1959, 国立国際美術館。制作時の痕跡を如実に示すかのような生々しい絵具が印象的。
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より
展示風景より、左から正延正俊《作品》1960, 国立国際美術館、《作品'63・11》1963, 兵庫県立美術館(山村コレクション)、《作品64-3》1964, 芦屋市立美術博物館
鑑賞にも有り様を定めない「空っぽの中身」
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より
吉原治良の美的精神のもと、具体作品には作品説明はおろか、タイトルも一部を除いて、ほとんどが「無題」あるいは「Untiled」という作品名になっているのは有名な話だ。「空っぽの中身」と題された第2章では、具体において、作品や制作方法はもちろん鑑賞者に対する自由をも模索していた会員たちの軌跡が見てとれる。
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より。大きな存在感を放つ、山崎つる子《赤》1956/85, 兵庫県立美術館(山村コレクション)
鑑賞者に否応なしに空虚の存在を感じさせる山崎つる子の《赤》がある展示室を通り過ぎると、円と線が空間を埋めるサイケデリックな展示室へとつながる。
そこには、国立国際美術館の主任研究員である福元崇志氏が *「形=意味として結実させず、ただただ官能刺激をもたらすだけの作品たち。それらは見ることを、精神の側から肉体の側へと連れ戻す」と語る、鑑賞者の五感を刺激し揺さぶりをかける作品郡が並ぶ。
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より
展示風景より、左から聴濤襄治《WORK-2-7-68》1968, 芦屋市立美術博物館、名坂有子《作品》1966, 大阪中之島美術館、今中クミ子 《赤と黄》1966, 国立国際美術館
「絵画とは限らない」表現方法
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展示風景より
最終章のテーマである「絵画とは限らない」では、金山明や吉原治良のタブローという形態をとりつつも枠外の世界を感じさせる作品から始まり、板で制作された村上三郎 《作品》や、暗闇で妖しい蛍光色を放ちながら回転するヨシダミノル《Just Curve '67 12 polycycle》、なめらかな曲線と黒々とした穴が印象的な今井祝雄の《白のセレモニー HOLES #3》、展示室に突然現れる大量のクッションで構成された森内敬子《作品》など、立体性を手に入れた作品が登場。具体の変容の歴史が作品とともに紡がれる。
展示風景より、手前にヨシダミノル《Just Curve '67 12 polycycle》1967, 現代家族リサーチャーズ、奥に山崎つる子の《作品》1957/2001, 芦屋市立美術博物館、が見える。
展示風景より、左壁に今井祝雄《白のセレモニー HOLES #3》1966, 芦屋市立美術博物館、右壁に松田豐《CRU-CHO》1967, 大阪中之島美術館、床には森内敬子《作品》1968/2012, 個人蔵、が展示されている。
そして全ての展示室を後にすると、最後は村上三郎《あらゆる風景》1956/92 で展覧会は締め括られる。同作品は大阪中之島美術館にも展示されている作品であり、村上の意図が見事に合致した展示となっている。
展示風景より、村上三郎《あらゆる風景》1956/92, 個人蔵。@MURAKAMI Tomohiko
18年という年月の中で、それぞれの作家たちが模索し続けた美術の在り方。日本美術史において神格化されるまでに至った「具体美術協会」という集団の変遷を個々の作品を通して紐解く貴重な展覧会となっている。
「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」の展覧会場へはエレベーターで地下2階へ。
解散50年の時を経て再び中之島で蘇る、具体の展覧会『すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合』は 2023年1月9日まで開催。
国立国際美術館 大阪中之島美術館 共同企画
『すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合』
会期:2022年10月22日(土)– 2023年1月9日(月・祝)
開場時間:10:00 – 17:00 *国立国際美術館は金曜・土曜 20:00 まで(入場は閉場の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし、1 月 9 日[月・祝]は両館開館/1 月 2 日[月・休]は大阪中之島美術館のみ開館) *大阪中之島美術館は 12 月 31 日(土)、1 月 1 日(日・祝)休館 *国立国際美術館は 12 月 28 日(水) - 1 月 3 日(火)休館
会場:国立国際美術館 地下 2 階展示室、大阪中之島美術館 5 階展示室
文章引用元:「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」展覧会図録p.204-205。