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スーラージュ美術館 ─『具体 絵画の空間と時間』展開催の意義
評価され続けているアジアのアート
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「具体展」展示風景(スーラージユ美術館に於いて)
国際的に評価されているアーティストやアジアのアートマーケットに関しての書籍『今、評価され続けているアジアのアート』をデジタルアーカイブとしてお届けするシリーズ企画。第4回目は、具体美術協会をご紹介する。
スーラージュ美術館─『具体 絵画の空間と時間』展開催の意義
蓑 豊
兵庫県立美術館館長
画家・スーラージュの熱望により「具体」展が実現
二〇一八年七月七日から十一月四日まで、フランス、アヴェロン県の県庁所在地ロデーズにあるスーラージュ美術館において『具体 絵画の空間と時間』展が開催されました。この具体展の開催は、ロデーズ出身で「黒の画家」として知られるスーラージュの強い希望により実現しました。スーラージュは一九五七年に初来日してから、その後何度も日本を訪れていて、日本と大変深いつながりがある画家です。またアヴェロン県と兵庫県は二〇〇〇年から姉妹県として文化、教育、経済など様々な分野で交流を展開しており、今回、兵庫県立美術館から具体の代表作16点を貸出しました。兵庫県立美術館は、地元発祥の芸術集団として具体を重視し、「山村硝子」社長を務めた西宮市出身の収集家山村徳太郎による「山村コレクション」を核に、作品を多数収集してきました。一九五〇年代半ばから一九七〇年代初頭までの一八年に及ぶ具体の活動は、一般的に初期、中期、後期の3期に分けられますが、今回出品した作品は、さまざまな年代における具体の作品の多様性をご覧いただける内容で、初期の激しいアクションと物質性を際立たせた作品から、中期の絵画性をより意識した作品、そして後期の幾何学的な構成による作品といったものでした。これらを通して、「具体」の表現の変遷をたどることもできる展覧会となりました。開会式には私も出席し、その様子は地元各紙に大きく取り上げられました。ロデーズは人口約24、000人の小さな町ですが、最終的には6万人以上の入場者を集めました。
「具体展」の開幕で挨拶をする兵庫県立美術館館長 蓑豊
終戦から九年目の一九五〇年─
芦屋市を拠点に誕生した革新的な芸術集団―具体美術協会
「具体美術協会」は、終戦から九年目の一九五四年、日本が事実上の主権を回復し、戦後の混乱からようやく脱しつつあった時代に兵庫県芦屋市を拠点として結成されました。社会の復興とともに、美術の分野でも新しい動きが次々と起こりました。それらの中で、現在でも国内外から高い関心を集めているのが「具体美術協会」です。具体の代表者でメンバーの精神的支柱でもあった吉原治良は、翌年創刊した機関誌『具体』の中で、「現代の美術が厳しい現代を生きぬいて行く人々の最も解放された自由の場であり、自由の場に於ける創造こそ人類の進展に寄与し得る事であると深く信じる」と「具体」の理念を示し、つづいて「われわれはわれわれの精神が自由であるという証しを具体的に提示したい」と「具体」というグループ名の由来を述べています。「具体」はその理念どおり、メンバーたちの自由な創造の場でありつづけました。
吉原治良の「人の真似をするな」を精神的な支柱に
タピエの評価を活動の理論的な支柱に
吉原の「人の真似をするな」という言葉が研究者の中で独り歩きしていますが、実際は絵の表現の上で、「人のやらない表現方法を考えなさい」という指示のもと、従来の美術の概念を覆す、大胆かつ斬新な試みがきわめて活発に行われました。
一九五七年、フランスの美術批評家ミシェル・タピエとの運命的な出会いにより、「具体」の活動は大きな展開をみせました。具体にとってタピエによる評価は、活動における理論的支柱となったばかりでなく、メンバーたちに大きな自信を与えたに違いなく、以後「具体」は、フランス、イタリア、アメリカへとその活動の領域を拡げ、国際的に認知されるようになりました。また一九六〇年代半ばには、アラン・カプローが具体をハプニングの先駆と位置付け、その文脈でも具体は注目を集めました。阪神間とよばれる、大阪と兵庫の間のローカルなエリアで誕生した美術グループの活動が世界的な美術の動向と奇しくも軌を一にしていたことは、吉原をはじめとするメンバーたちの先見性を物語るだけでなく、この地域が、そのような自由な美術運動を醸成する寛容で豊かな文化的土壌(背景)をもっていたからに他なりません。
「具体展」展示風景(スーラージユ美術館に於いて)
現在も国内外から評価される具体の活動
アルフレッド・パックマンは一九八六年にパリのポンピドゥー美術館で開かれた具体展のカタログに寄稿した「具体─並外れた直観」の中で次のように述べています。「今回に限って言えば、この遠く離れた日本で生まれた革新を、そうとは知らず模倣するのは西洋人である。具体はどのようにしてかくも才能溢れる革新を生み出したのだろうか。おそらく西洋の制度に汚染されていないことが必要だったのだろう」。具体が世界に認められ、評価されてきたのは、海外のマネではない、具体のオリジナルさが分かったからです。これからもっと外国からの要望が増えることでしょう。具体は兵庫県立美術館のコレクションの柱の一つで、当館と芦屋市立美術博物館、大阪で建設計画が進む大阪新美術館が、国内の具体研究の三大拠点となります。これからも連携し、国内外に発信していきたいと思っています。
蓑 豊(みの ゆたか)
金沢市生まれ。慶応義塾大学卒業後、ハーバード大学大学院美術史学部博士課程修了、文学博士号取得。カナダ・モントリオール、米国・インディアナポリス、シカゴの各美術館にて東洋部長を歴任。一九九六年大阪市立美術館、二〇〇四年金沢21世紀美術館初代館長に就任し、二〇〇五年より金沢市助役も兼務。二〇〇七年四月、金沢21世紀美術館特任館長、大阪市美術館名誉館長となり、同年五月、オークションハウスのサザビーズ北米本社副会長に就任。二〇一〇年四月より兵庫県立美術館館長となる。主な著作に「超・美術館革命─金沢21世紀美術館の挑戦」「超〈集客力〉革命─人気美術館が知っているお客の呼び方」(角川書店)他多数。
書籍情報
書籍名:今、評価され続けているアジアのアート
発行:軽井沢ニューアートミュージアム
発売 : 実業之日本社
発売日 : 2019年8月6日
※本記事に掲載されている情報は発行当時のものです。現在の状況とは異なる場合があります。