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小松美羽インタビュー|韓国・シンガポールで初個展へ
2023.08.28
INTERVIEW
小松美羽 アトリエにて
各国を旅して出会った神獣をキャンバスに描く、現代アーティストの小松美羽。2022年には37歳で日本の公立美術館での大規模展覧会開催を、また世界遺産・厳島神社でのライブペイティングを果たすなど、コロナ禍でも精力的な活躍を見せた。ホワイトストーンギャラリーでは、2023年9月に韓国・ソウル、同年10月にシンガポールでの個展開催が決定している。本展覧会に先立ち、小松美羽へのインタビューを敢行。前半となる本記事では、小松にとって重要な存在である“狛犬”や、新しいアトリエでの生活について尋ねた。
各国の文化が織り込まれた狛犬
アトリエにて制作中の小松美羽。
日々の制作を瞑想とし、近年は神社や寺への奉納作品を制作するなど、日本古来の文化ともつながりのある小松の原点は、幼少期に体験した山犬さまとの出会いに遡る。自然あふれる長野の地で体験した神秘的な出会いは、神獣をモチーフとする作家の制作につながる。中でも神々を守護する“狛犬”は、小松にとって重要な神獣。もうすぐ始まる展覧会でも、狛犬は展覧会への期待を大いに膨らませてくれる重要な存在だ。
ー韓国とシンガポールでの展覧会では狛犬をモチーフにした作品が展示されますね。
小松:2つの展覧会を開催するにあたって、特別な狛犬さんを描きました。狛犬さんのルーツには色々な説がありますが、聖書に登場する「ケルビム」は狛犬のルーツという説があり、最終的に日本には中国や高句麗を経て伝わった説がありますし、「高句麗」という言葉がなまって「狛犬」になったという説もあります。
ー小松さんは各国での神獣のイメージを ”キメラ” のように組み合わせているとのことですが、両展ではいかがでしょうか?
小松:狛犬さんは韓国を通って渡来した、と確信に近い思いがあるので、高句麗犬を改めて勉強し直しました。その上で高句麗犬と日本狼さんを交ぜ合わせるように、キメラ化した狛犬さんを描きました。結果として、日本の狛犬さんによく見られるような短躯的なフォルムではなく、スリムで非常にアクティブな狛犬さんになりましたね。
小松美羽が韓国での展覧会のために描いたイラスト。後ろにはチマチョゴリを着た狛犬も。
小松:シンガポールに関しては、やはり世界的に有名なマーライオンさんですね。マーライオンさんは獅子に水属性が加わっているので、その部分をキメラ化しながら描きました。
小松美羽がシンガポールでの展覧会のために描いた狛犬。マーライオンを彷彿とさせる出立ちに。
ー神獣をキメラ化する際にどのような点を重要視していますか?
小松:キメラ化する際は、お互いの文化を尊重・尊敬して、それぞれの文化を混ぜこんでいくという方法で行っています。私は“The Great Harmonization”(大調和)という創作理念をもって活動を行っていますが、キメラ化も大調和の1つです。さまざまな文化や要素を1つの絵の中で調和させながら作り上げることを大切にしています。
自然の中でキャンバスと真摯に向き合う
作家アトリエ
アトリエを東京から生まれ育った長野に移した小松。絵を描くことを瞑想とする小松にとって自然溢れる土地での暮らしは、今まで以上に制作に真摯に向き合う結果となった。
ー現在のアトリエには春頃に移られています。制作に変化はありましたか?
小松:より深く瞑想するようになりました。また、スペースが広くなって大きい作品を積極的に描くようになりましたね。自然のエネルギーを受けているからか、制作ペースもかなり早くなったと思います。
ー自然の中で制作意欲が増した、ということでしょうか?
小松:悪いものも良いものも表裏一体、ということだと思うのですが、光が強くなれば影も濃くなるのと同様で、多くの人の前に出ると悪いものを呼び寄せてしまうことがあります。そのため、必要最低限は外に出ないで、家にこもって描くようにしています。純粋に家の中で描いているのが一番楽しい、ということもありますが。私にとって絵を描くことと瞑想することは一緒なので、自分の魂の成長につながると信じています。
小松美羽アトリエより、「エリア21」シリーズの一作品。
ー小松さんにとって、瞑想も絵を描くことも魂の成長に繋がる行為ということですが、作家として結果を残したいと思うことはありますか?
小松:やっぱりね、人というのはなかなか執着から抜けられません。自分が何者かでいないと不安を感じるような、弱さみたいな周期が巡ってくることはありますね。自分の魂を信じて純粋に何かに向かっていれば何者かになる必要なんてない。だけど、頭では分かっていても俗世的なことに傾いてしまうことはあります。自分の魂が望んでいない欲望が出てしまうんですね。そういう時こそ、私は絵を描くことに時間を費やしていますし、そういった欲望が出ないような生活を心掛けています。
ー本当に修行のようですね。
小松:タイやインドでいろいろな聖者の方にお会いしましたが、ちょっとした執着でさえ抜け出すのは大変だとおっしゃっていました。それでも、「無邪気な人間になりたい」という思いがあります。全ての執着を捨て去るのは難しいかもしれない。だけどひとつずつであっても、執着という垢をビリビリ剥がしていきたい。垢は残ったとしても、何枚かだけでも剥がして死んでいけたらと思っています。
無邪気さが浮き彫りにする邪気
制作中の小松と、小松に抱かれている愛犬の月(ゆえ)ちゃん。
アトリエで瞑想と制作を交互に、時に同時に行いながら日々を過ごす小松。静かに過ごす小松の傍にはいつも、愛犬の月(ゆえ)ちゃんと烏兎(うと)ちゃんがいる。インタビューの間に小松に抱かれたまま、スヤスヤと眠る月ちゃん。愛犬たちと過ごす毎日は、小松の制作と修行に日々気づきをもたらしている。
ー愛犬との生活は制作にどのように影響しますか?
小松:人は本来、大人になるにつれて無邪気になっていくんですよね。無邪気というのは、邪気をなくすという意味で私は使っているんですが、ワンコたちって邪気がないんですよ。邪気を持って触れてこないと言うのでしょうか。嫌いだったら嫌い、好きだったら好き、眠たいときは眠たい、という感じで、無邪気な状態で接してくれるんですね。
無邪気で純粋なワンコたちを見ていると、穢れきっている私の心をまざまざと見せつけられます。相手が無邪気な存在だからこそ、こっちの邪気が浮き彫りになる。そんな時は、経験という名の垢を取り巻いた邪気を少しでも払っていかなければならないと強く感じています。この子たちを鏡にしてね。
愛犬の話題になると笑顔が絶えない小松。愛犬と一緒に入れるギャラリーが増えて欲しい、と熱く語った。
その土地、その時でしか描けない絵
川崎市岡本太郎美術館にて行われたライブペインティングの様子。ライブペインティングが進むにつれて、白装束が色とりどりの色に染まる。photo by 東達也
“祈りのアーティスト”として称されることも多い小松にとって、ライブペインティングは神事である。祈りを捧げた後、一心不乱に絵の具を塗りつけ、混沌とした色彩のキャンバスに神秘の世界を描きだす。観るものすべてが固唾を呑む緊張感のあるライブペインティングは、会場で直接観ることで作家の真剣さを肌で感じることができる。
ー2013年に福岡で初めてライブペインティングを行ってから10年が経ちました。国内外を問わず多くのライブペインティングを行ってこられましたが、事前に準備はされますか?
小松:絵の具の準備は必須です。どんな色が必要になるか分からないので、多種多様な色を多めに持参します。あとはその土地の歴史を勉強しますね。土地のことを知った上で、その国の文化や土地の持つエネルギーに感謝と尊敬し、その土地に呼んでいただいたことに感謝しながら描きあげていきます。
アトリエにて制作中の小松美羽。
ー韓国とシンガポールではどのようなライブペインティングになりそうでしょうか?
小松:実際にライブペインティングをした時にどう繋がって、何が出てくるかは、やってみるまで分かりません。韓国でのライブペインティングは初めてなので、どんな絵になるか予想もつかないですね。ただ、ライブペインティングに向かう時も描いている最中も、基本は空から降ってくる答えをミニシアターで受け取りながら描いていきます。
シンガポールでは過去にアートフェアに出品した際にライブペインティングを行いましたが、あれから月日が経っているので、きっと全く別の絵になると思います。どんな絵が出来上がるかは私にも未知なので、皆さんにも楽しみにしていただきたいですね。
コロナ禍を経ての達成、そして覚醒へ
小松美羽。後ろには「エリア21」シリーズの作品が並ぶ。
国内外で活動する小松美羽は、自身の活動を「覚醒」「進化」「達成」の3年周期で捉えている。2022年から2023年にかけての達成の年は、川崎市岡本太郎美術館での大規模展や、広島の厳島神社でのライブペインティング、生まれ育った長野の県立美術館への作品所蔵など、これまでの制作が実を結ぶ活動が続いた。
ー「達成」の年となった2022年4月から2023年4月を振り返ってみて、いかがですか?
小松:コロナの影響で制限されてしまった時期があったので、当初の周期からはずれてしまいましたが、達成をきちんと迎えられたと思っています。
特に岡本太郎美術館での展示では、広いスペースに加えて天井高もあって会場を贅沢に使うことができたので、展示方法を勉強させていただきました。展覧会というと作家の名前がメインで出ますが、1つの展覧会を開催するために多くの人の叡智が結集されていると改めて感じましたね。だからこそ、1人でも多くの人に観に来てもらいたいですし、そのための仕掛けをこれからも考えていきたいと思います。
ー2023年4月から覚醒の年が始まって、早数ヶ月がすぎました。今年はどのような年になりそうでしょうか?
小松:コロナで行動が制限された3年間でしたが、その間も毎日欠かさず瞑想をしていましたし、絵も描かせていただいていました。自らの役割を全うすることで、世界はまだまだ広がっているという想いと同時に、今まで以上に活動的にやっていかなければならないという使命感を改めて感じています。
アトリエにて制作中の小松美羽。
9月にはホワイトストーンギャラリーソウルでの個展、10月にはホワイトストーンギャラリーシンガポールでの個展と、アジアでの活動が続く小松美羽。インタビュー後半では、展覧会内容や日々の制作の様子をお届けする。