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アート × ハイパーカーが向かう先|Grey Avenue
2024.02.07
EXHIBITION
Ronald Ventura アトリエにて
2024年の幕開けに相応しい一大イベントとして、ホワイトストーン銀座新館は、フィリピンのアーティスト、ロナルド・ヴェンチューラの個展を開催している。本展ではアートの表現媒体としての「ハイパー・カー」をテーマに掲げ、アートと車の両者の可能性を拡張する展覧会となっている。
展覧会の開幕当日には、レーシング界のみならず世界中のカー・コレクターを魅了してきたRWBの代表・中井啓氏との、特別なコラボレーション・カーが登場した。
人間を魅了するスピード、パワーに文化を融合
作家アトリエにて
イメージとスタイルの複雑なレイヤー(層)を特徴とするヴェンチューラは、何世紀にもわたってスペイン・日本・アメリカ合衆国と様々な国の統治下にあった母国・フィリピンのように、多様な文化と象徴が混じり合う “視覚の層(レイヤー)” を作品で作り出す。ハイパーリアリズム、漫画、アニメ、アイコン、落書きなど、多岐にわたるモチーフを高次元で組み合わせる高い描写力で、複数の異なる現実を作品上で同時存在させることを可能にしている。
ロナルド・ヴェンチューラ《COMPETITION》2023, 50.8×40.6cm, Acrylic & polyurethane paint on carbon fiber.
東南アジアで高い評価を受けているアーティストのロナルド・ヴェンチューラの関心ごとの1つが、「ハイパーカー」だ。ハイパー・カーがもつ、造形的美しさやスピードに早くから惹かれていた作家のアトリエには、至るところで車への偏愛を見つけることができる。
今展『Grey Avenue』では、ハイパー・カーを主題に据えるに留まらず、ハイパー・カーそれ自体をアートの表現媒体とする可能性にも言及している。
第二の皮膚をその身に纏う
レセプション展示のためにポルシェにラッピングを施す様子
ヴェンチューラは、多くのハイパー・カーのデザインに携わってきた経験を持ち、「第二の皮膚」としてのカー・スキンのデザインに情熱を注いできた。レセプション当日は、作家によって特別に制作されたスキンを、クラシック・ポルシェ2台が身に纏って登場。ギャラリーや美術館などの特別な空間で一方的に鑑賞される対象だけがアートなのではなく、そのスピードとパワーで人間を魅了するマシンたちもアートの一旦を担う存在であることが示された。
左から白石幸栄(ホワイトストーンギャラリーCEO)、ロナルド・ヴェンチューラ、中井啓(RWB)
クラッシック・ポルシェ・カー・チューニング “Ronald Ventura Version” ために制作されたボンネット
アートと車、その共通点
作家アトリエ
作家はアトリエでのインタビューで「私はスピードというものに非常に魅了されている。 正確さとコントロールでスピードをどう扱うか。それは私の絵画でも同じです。制作過程でイメージが衝突することもあるし、ポップカルチャーを含む文化的・歴史的事実に触発された多層レイヤーの組み合わせ方を、イメージの操作として見ることもできるからね」と、自らの作品と車との共通点を語った。
アトリエの壁に描かれた試し書き。様々な作品のデッサンが層のように重なる。
実際に作家が手掛けるスキンの多くは、動物と人間を組み合わせた立体作品シリーズから生まれる。野生的なパワーをモチーフに作られたキメラ的シリーズと、スピードの象徴であるハイパー・カー。テクノロジーが発展した現代だからこそ、純粋で原始的な “力” が強烈な魅力を放つ。
ロナルド・ヴェンチューラ個展『Grey Avenue』はホワイトストーンギャラリー銀座新館で2024年2月17日まで開催。オンラインでもアトリエの全容を垣間見ることができるインタビュー動画をご覧いただけます。