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寺倉京古の台湾初展覧会|子供たちの囁き展インタビュー

2022.09.21
台湾

ホワイトストーンギャラリー台北は寺倉京古とファン・ピン・トンによるグループ展「Fairy Whisper」(日本語タイトル:子供たちの囁き)を2022年9月3日〜10月15日の期間において開催している。両者ともに赤ん坊や幼い子どもをモチーフとした作品を制作しており、寺倉京古は磁土によるキャスティング技法と手びねりによる造形を組み合わせた制作を行うアーティスト。今回は寺倉にとって台湾で初となる展覧会に向けた意気込みや、作家活動の原動力、パンデミックを経ての制作変化についてインタビューした。

アート=人々の想いを乗せる器

ー寺倉さんが制作する作品には赤ん坊や幼い子どもをモチーフにしたものが多いですよね。その理由は?

寺倉:アート作品には人々の想いを乗せる器のような役割があると、私は思っています。赤ん坊や子どもは無垢な存在であり、なおかつ誰しものはじまりの姿であるからこそ、人々の想いや祈りを託すことのできる唯一無二の存在であると考え、彼らをモチーフとした作品を制作しています。

それに、彼らの柔らかで思わず触れたくなるような形や質感には、心がキュッとなるような不思議な魅力があります。そんな子供の柔らかな存在を硬い焼き物で表現することに面白さを感じているんです。

「Fairy Whisper」展示風景より

ー作品を作るとき、モデルはいますか?

寺倉:私は制作するときに、現実の子供の姿ではなく、心の中に存在する“子ども”を象徴的に表現しているので、特定のモデルはいません。ただ、作品の顔が私に似ていると言われることはよくあります。自分では意識してないのですが、いつも見ている顔なので無意識に似てきてしまうのかなぁ…と思います。

寺倉京古アトリエでの制作風景

アートとしての表現に陶芸を選んだ理由

ー寺倉さんは2017年に東京藝術大学卒業、そして2020年には同大学院修士課程で陶芸を修了されています。陶芸という道に進もうと思ったきっかけは?

寺倉:東京藝術大学の工芸科では、彫金・鍛金・鋳金・漆・陶芸・染織の6専攻から3つを選んで体験し、学部2年生の後期から学びたい専攻を選びます。最終的に迷うことなく陶芸を選んだのですが、直感的に自分に合っている気がしたんです。

今振り返ってみると、小さい時から絵を描くことだけじゃなく、手を動かして何かを作ることが好きでした。小学生の時には学校の紙粘土クラブに所属して小さな立体をちまちまと作ったり、高校の卒業制作では石粉粘土で作品を作ったり。子どもの時からずっと手に伝わる粘土の柔らかさと自由に形を作れるところに魅力を感じていたのだと思います。だからなのか、専攻を選ぶときにも表現したい形や質感を生み出せるのは陶芸の道の中にあるのだろうなと、無意識のうちに感じ取っていたのだと思います。

展示風景より、寺倉京古「月とうさぎ」シリーズ

ー今展は2020年から2022年にかけて制作された作品が多数を占めています。コロナ禍を経て、制作やモチーフの選定に変化はありましたか?

寺倉:ウイルスによって世界中で多くの命が奪われ、生活には様々な制限が設けられました。先行きの見えない不安な日々の中で、子どもの存在は未来への希望や祈りを託す存在であるとさらに強く感じましたし、自分の中で子どもをモチーフとした作品を作りたいという気持ちやそこに込める意味がさらに増しました。

また同時に、時は粛々と流れて、生きるものには必ず死が訪れるということを改めて感じ、肉体的な生死を超えた魂の存在を形にしてみたいと考えるようになりました。

寺倉京古《私を導く小さな炎》2022, 32.0×28.5×62.0cm, 陶土・手びねり制作

台湾での初展覧会「子供たちの囁き」

ー台湾での初展覧会となりますが、いかがでしたか?

寺倉:台湾は数年前に一度訪れたことがあって、とても素敵な場所でした。台湾にルーツをもつ大切な友人もいるので、私にとって親近感を感じる特別な場所でこのような機会をいただけて嬉しいです。

ホワイトストーンギャラリー台北のように、広いギャラリー空間での展示が初めてだったので、これまで作ったことがない大きなサイズの作品を制作してみようと、手びねりという成形技法に本格的に挑戦してみました。

「星の子」や「月とうさぎ」といった2022年の新作シリーズは、“夢幻の旅”というテーマのもと、眠る前に読み聞かせる絵本の物語の登場人物をイメージして制作しています。

また、2020年の修了制作展にて発表した「たまゆら」という作品は、私にとって特別な意味をもつ作品であり、台湾でインスタレーションとしてお見せできるのが初となります。直接会場に行けないのはとても残念ですが、作品たちに私の想いを託したので、ぜひ彼らに会いに来ていただけたら嬉しいです。

展示風景より、手びねりにて制作された「炎」シリーズ

寺倉京古《星の子》2022, 11.5×13.5×30.0cm, 磁土・金彩・泥漿鋳込み制作

展示風景より、寺倉京古「たまゆら」シリーズ

ー今展は「Fairy Whisper」(日本語タイトル:子供たちの囁き)というタイトルでの2人展です。寺倉さんとファン・ピン・トンさんの作品には、子供の丸みを帯びた視覚的な特徴が挙げられますが、寺倉さんは黃品彤さんの作品を見てどのように感じましたか?

寺倉:彼女の作品からは、生命の始まりである赤ん坊(子ども)と、過酷な環境下でも成長していくサボテンのような多肉植物、貝、石などの自然物を融合させることで、生き生きと存在する生命への愛情と神秘的な自然への畏敬の念を感じます。

また偶然ではありますが、高校生3年時の美術科の卒業制作で、赤ん坊と多肉植物をモチーフとした立体作品を制作したのが、私のアーティストとしてのスタートでした。その作品以降、赤ん坊や幼児をモチーフの中心として制作してきましたが、最初の頃は子どもの丸々としたおしりや足などの下半身と、有機的な形が融合したような造形作品を制作していたんです。そのため、彼女の作品と共通する点が多く不思議な縁を感じています。

「Fairy Whisper」展示風景より、黃品彤「生命の樹」シリーズ作品

ー最後に今後の展望を教えてください。

寺倉:これまでは、磁土による泥漿鋳込みを主な成形技法として制作してきましたが、今回はじめて陶土で本格的な手びねりに挑戦しました。制作はとても楽しいものでしたが、同時に未熟な部分がまだまだあると実感したので、今後は手びねりでの制作も積極的に行いたいです。また、手びねりに限らず、その時感じたことや理想とするものを作りたいという気持ちに常に正直に制作を続けていきたいです。

展示風景より、寺倉京古「月とうさぎ」シリーズ

人間のはじまりであり無垢な存在である子どもたちを通して、人々の想いを乗せるアート作品を作り出す、寺倉京古。寺倉が“柔らかで思わず触れたくなるような形や質感”と評する子どもの造形が、彼女の作品では、やさしさと純真さが滲み出るように表現されている。思わず触れたくなるような寺倉の作品をぜひ会場で、そしてオンラインエキシビジョンでご堪能あれ。

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