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土が“やきもの”に成る|寺倉京古にとっての陶芸とは
2022.10.20
陶芸と木彫という立体作品による2人展「Fairy Whisper」(日本語タイトル:子供たちの囁き)が、ホワイトストーンギャラリー台北にて、好評のうちに閉幕した。両者ともに赤ん坊や幼い子どもをモチーフとした作品を得意とするアーティストだ。その内のひとりである寺倉京古は、東京藝術大学在学時に迷うことなく陶芸を専攻し、現在も陶芸作品を制作している。在学時から一貫して陶芸を行う寺倉に、陶芸作品の制作方法と陶芸の魅力を尋ねた。
陶芸作品の成形:手びねりと泥漿鋳込み
陶芸制作にはさまざまな成形技法が存在するが、ここでは「泥漿鋳込み」と「手びねり」という成形技法を取り扱う。これまでは主に「泥漿鋳込み」で制作を行ってきた寺倉だが、9月に開催された展覧会「Fairy Whisper」で初めて、手びねりでの制作に挑戦した。
手びねり Hand building
「手びねり」とは古からある成形技法で、縄文土器や埴輪などがこの成形技法によって作られた。粘土を縦にも横にも自由自在に形を伸ばしながら成形できるのが大きな特徴。
実際に作る際は、最初に手回し轆轤の中心に丸めた粘土をのせ、土台となる形を作る。作った土台にひも状の粘土を積み上げ、亀裂が入らないようにしっかりと本体の粘土にくっつけながら形を成形する。
寺倉は手びねりについて、「外側からだけでなく、内側からも力を加えて粘土を伸ばしながら作っていくので、張りのある柔らかなふくらみを表現するのに適しています。特に顔の表情を作るときは、内側から押して頬を膨らませたり、外側から押して凹ませるなど、緩やかな凹凸で繊細に表情をつくっていきます」と語る。
手びねりにて制作されている「炎」シリーズ
泥漿鋳込み(泥漿=でいしょう)Slip Casting
「月とうさぎ」シリーズのうさぎの原型と石膏で作った鋳込み型
「泥漿鋳込み」とは、石膏型を用いて泥漿(泥状の粘土)を鋳込んで成形する技法で、マイセン人形などがこれに当たる。
この技法は、原型づくり→鋳込み型を石膏でつくる→泥漿づくり→鋳込んで成形という大まかな流れで成形を進めるが、工程の数が多く、手間と時間がかかるのが特徴。一方で、型を繰り返し使うことができるので、類似作品を複数作りたい場合に最適。また、磁土と呼ばれる種類の土は手びねりに向かないので、磁土で作品を作りたい場合に泥漿鋳込みが採用されることも多い。
成形する際は、まず塑像用の粘土で原型を作り、石膏で鋳込み型を作成する。形が複雑になるほど、必然的に型の数も増える。
次の鋳込みの作業では、乾燥させた石膏型に泥漿を満杯まで注ぎ入れる。石膏型に泥漿の水分が吸われることで、型の内側に膜状に形が成形される。常に満杯の状態を維持する必要があるため、泥漿を途中で継ぎ足しながら、必要な厚みになるまで待つ。十分な厚みになったら、余分な泥漿を出しきる。
乾燥させた石膏型に泥漿を満杯まで注ぎ入れる
その後、型内の粘土がある程度まで固まったら、型から慎重に外す。粘土がまだ柔らかいうちに形を変形させたり、表面を滑らかにする作業を行う。
石膏型からパーツを取り外す
型から出したパーツは、接着面がぴったり合うように形を整え、泥漿を使ってパーツと本体を接着すれば成形完了となる。
「月とうさぎ」シリーズのうさぎの本体とパーツを接着する
「私のこだわりとして、キャスティングであってもただ形を複製するのではなく、一つ一つの作品に個性や”こころ”を与えるように、型から出した後に少し表情を変えたり、パッと見たときには気づかれない程度であっても必ず手を加えています」と、寺倉はキャスティングで制作する際の心構えを話す。
成形技法の使い分け
「作品を制作する際、成形技法をどのように使い分けていますか?」と質問したところ、「作りたい作品の形をもとに、どの技法が最適かを選んでいます」と答えた、寺倉。
「泥漿鋳込みは、同じ形を複数作ることができるので、作品をいくつも組み合わせて1つのインスタレーションとして見せたいときに選ぶことが多いです。磁土という白くてきめの細かい土は、手びねりは向いていないので、磁土を使って白くて綺麗な作品をつくりたい場合も泥漿鋳込みを選んでいます。手びねりは、大きさも形も自由に作ることが可能なので、1点ずつ集中してつくりたい場合に最適ですね」
失敗した鋳込みや削りカスの粘土は、乾燥させたのち泥漿にして再利用
成形したらいざ、焼成へ
手びねりと泥漿鋳込みで作られた作品は、素焼きから同じ工程をたどる。ここでは寺倉の制作工程をもとに、陶芸作品にどのように火が入れられていくのかを、順を追ってご紹介する。
素焼き Bisque firing
素焼き。寺倉は約8~12時間かけて800~900℃で焼成する。
粘土で作った作品をゆっくりと完全乾燥させたのち、1回目の焼成、つまり「素焼き」を行う。温度は800~900℃。作品の大きさに合わせて、8~12時間ほどかけて焼成する。素焼き後はやすりがけで造形の最終仕上げ。
下絵付け Under glaze painting
やすりがけを終えたら、素焼きした作品の上に陶芸用の絵具(下絵具)で彩色を施す。陶芸用の絵具(下絵具)は、焼成をすると色が変わるので、色見本となるテストピースを事前に用意。
下絵のための色見本
テストピースを参考にしつつ焼成後の色を想像しながら、淡く色を重ねる。筆はもちろん、エアブラシを使って色のグラデーションをつけることもあるという。
エアブラシで彩色を施した《炎》
「下絵付けの中で特に瞳を描くときは、作品に魂を入れるような感覚で集中して気持ちを込めて描いています」と、瞳への並々ならぬ想いも語ってくれた。
作品の目に下絵付けする様子
釉がけ Glazing
目には透明な釉薬、肌の部分にはマットな釉薬を施した「月とうさぎ」シリーズ
下絵付けが完了したら、その上に釉薬(ゆうやく)を施す。釉薬は高温で焼成するとガラス質に変化する薬品で、様々な原料を組み合わせることで、多彩な色と質感を表現できる。1つの作品に複数の釉薬を使い分けることも可能。
本焼き glost firing
本焼き。寺倉は約15〜17時間かけて約1230度で焼成する。
2回目の高温での焼成を「本焼き」と言う。土が焼き締まることで、粘土であった時よりも10〜20%ほど大きさが縮み、釉薬はガラス質に変化する。
「高温の窯の中では、最初は土だったものが、土には還らない別の物質”やきもの”へと変化していくように、自分以外の”力”に作品をあずけることで、良いも悪いも未知数の結果が生み出されることが、“やきもの”で作品を作る上での魅力であり、苦悩するところでもあります」と、陶芸がもつ魅力を語る寺倉。
上絵付け Over glaze painting
上絵の具
本焼きをした作品に、さらに上絵の具(800℃くらいで溶ける釉薬)や金彩(金を混ぜた液体)を塗り重ねる。寺倉の場合は、目の色に艶を足す、頬や鼻、口に赤色をのせる、などの彩色を施す。
上絵付けによって、目に艶がでた《炎》。
作品完成
上絵の具を塗った後に、3回目の焼成(約800~840℃)を実施。3回の彩色と焼成を行うことで、作品が完成する。
寺倉京古《星の子》2022, 11.5×13.5×30.0cm, 磁土・金彩・泥漿鋳込み制作
「Fairy Whisper」展示風景より、手前に《私を導く小さな炎》、奥に《炎》シリーズ。いづれも手びねりにて2022制作。
「本焼きを終え、3日ほど時間をかけて窯内の温度が下がってから、作品を窯から出すのですが、窯を開けるときはいつも期待と不安でドキドキです」と、作品を制作する際の苦悩と、作品が完成に近づいていく期待感を語ってくれた寺倉。
「その時感じたことや理想とするものを作りたいという気持ちに常に正直に制作を続けていきたいです」と、展覧会開催にあたって今後の展望も明かしてくれた。
寺倉京古が実際に制作を行っている様子は、2人展「Fairy Whisper」(日本語タイトル:子供たちの囁き)のオンラインエキシビジョンで公開中。寺倉京古の手によって、土から“やきもの”に成った作品たちをぜひご堪能あれ。